ありったけの愛を、君に。

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考えても頭が痛くなる一方で、あれこれ思考を巡らすより本人が口を開くのを大人しく待つことに決め、すっかり温くなってしまった珈琲を淹れ直す。



「……きたやま」
「うん」



泣いて声が掠れてしまったのか咳払いをして、もう一度名前を呼ばれる。
同じようにうんと応えると、ごめんねと謝られた。

まさか揶揄ってんのかと口から出そうになったところで、真剣な眼差しとぶつかる。



「こんな朝早くに、急におしかけて、しかも突然あんなこと…、驚いただろ？」



あぁ、それに対しての謝罪か。
突拍子無いことしている割にこういう生真面目さは忘れていないらしい。



「あー、まぁ…、うん。驚いたよ」
「…ごめん」
「いや、そんな謝んなくてもいいけどさ…」



あまりにごめんを繰り返すから何だか俺が苛めているみたいに感じて少しでも空気を和らげようと努める。
それに反し藤ヶ谷は、でもと続ける。



「北山に言ったことは、謝らないから」



真っ直ぐな瞳に、気の迷いとか揶揄いの類ではない事が改めて理解できた。



理解できたから、余計に分からなくなった。



カチャッとスプーンがカップに当たる音がやけに響く。
落ち着かなくて俯き加減にくるくると珈琲をかきまぜている間も、隣からの視線が痛いほどに突き刺さる。
恐る恐る目を合わせ顔を見て、何か言わなくてはと思った。




「……あー…っと…、…うーん……」



困った。何て言えばいいんだ…。



この場に適した言葉がひとつも思いつかなくてガシガシと頭と掻いて両手で顔を覆い俯く。
ありがとうもごめんなさいも何か違うような気がして、変なことを言えばこれからの俺らがどうなってしまうのかと怖くて、喉の奥が張り付いたように声が出せない。

永遠にも似た長い沈黙の末、フッと笑う気配がした。



「…そりゃあ、困っちゃうよね」
「……」
「俺だって、結構困ってる。
絶対言わないって決めてたはずなのになって」
「……」
「…例えばさ、俺が今日死んだとして」



その言葉に、ヒュッと息が詰まった。

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