ここから始まる…かもしれない二人

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「…藤ヶ谷はもうすぐ本番だな」
「うん、もう追い込み。
時間足りなくてやばい」
「え…それなのに夜俺と電話してて良かったのか？」
「それは別。北山の声一日中聞けないとか無理だから」
「…っ」



どれほどの鈍いやつにでもハッキリと分かるように伝えてくれる気持ちが…、俺の胸をギュッと締め付ける。



「…俺は、ちゃんと寝てほしいよ」
「だからだよ」
「…？」
「…あのね、最近…本番が近づく度に夜眠れなくなってたんだけど」
「…は？」



そんな事知らなかった。
確かに藤ヶ谷は慢性的に不眠気味で、寝るのが下手なことも知っていたけれど、電話ではそんな事ひと言も…



「でも、北山の声聞いたら何だかすごく癒されて…、電話切った後すぐ眠れたんだ」
「っ…そ、そっか」
「うん」



甘い視線に、逸らせなくなる。
ここは楽屋なのに…、みんないるのに…、抗えない。



そんな事を思っているとは露知らず、藤ヶ谷は特に意識していない風に笑みを向けてくる。
みんな何とも思わないのだろうかと視線を走らせてみるも、みんなは俺が台本覚えに夢中になっていると思っているからこちらには一切視線を向けていない。

唯一、目が合った横尾さんは口元に小さく笑みを浮かべてすぐに視線を手元のスマホに落とした。



「だからさ…」
「っ、えっ？」
「えって何、…もしかして俺の話聞いてなかった？」
「あ、ご、ごめん。ちょっとボーっとしてた…」



慌てて謝ると、藤ヶ谷はグッと眉間に皺を寄せた。
怒らせたのかと不安になり顔を近づけると、今度はほんのりと顔が赤くなっていき、そっと肩を押されて元の体勢に戻った。



「藤ヶ谷？」
「…あんまり、近づかないで」
「はぁ？」



近づくなって、自分から隣に座ってきたんだろうが。
近づかれたくないならここにいなきゃいいだろっ。



…なんて大声で放つには注目を浴びすぎてしまうだろうから、せめてもの抗議を態度で示した。
すると不機嫌さを醸し出している俺を見て、藤ヶ谷は困ったように眉を下げた。



「…そんなに寄られると、触りたくなるから」
「…っ、なっ…」
「困るでしょ…？だから……」



耳打ちされた言葉にいよいよ耐えきれなくなり藤ヶ谷を押し退け、横尾さんに助けを求めた。



「よっ、よこーさーんっ」



呼ばれた横尾さんはびっくりしたように顔を上げ、置き去りにしてきた藤ヶ谷と目の前に来た俺を交互に見て、小さくため息をついてから呆れたように笑った。

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