雪原に舞う銀華(アレスの天秤)3

film28 圧勝 ページ29

✤

のりかに続けて明日人も必殺技を繰り出したことにより、明らかな隙が敵に現れ始めた。

予想以上の雷門の力に、驚いたのだろう。

明日人から、パスを受け取った小僧丸は、十八番のシュート"ファイアトルネード"を打ち、見事に敵から、2点目を奪い取った。

前半終了のホイッスルが、鳴り響き、各選手がベンチに戻っていく中、FWの3人は、横並びになり、得意げな顔で次の作戦について話していた。

「作戦ならまだまだあるぜ！」

「馬の耳に念仏大作戦！」

「パンがなければケーキを食べればいいじゃないか作戦もな。」

いかにも可愛らしいセリフを小僧丸が言えば、ベンチで会話を聞いていたAは、可笑しそうに両手を叩いた。

｢全っ然小僧丸くんぽくないっ！あははっ〜｣

｢悪かったな、らしくなくてよ｣

笑いが堪えきれないのか、お腹に手を当てて、笑い転げるAに、小僧丸はツンと顔をそらす。

後半が開始され、逆転を図る御影専農だったが、超
金雲の奇妙奇抜で突飛な作戦に、ペースを崩され、呆気なく追加点を入れらた。4対0の雷門の完全勝利で、試合は幕を下ろした。

｢やりましたね！雷門の圧勝ですっ｣

｢良かったわね、A。｣

電光掲示板を見上げて、つくしと杏奈が嬉しそうにはにかみながら言えば、Aも無邪気な笑顔を浮かべた。

「次の相手は帝国学園。この程度の作戦では絶対に勝てない。」

喜びを噛み締めている雷門に、下鶴が釘を刺すように、厳しい表情で忠告する。

その光景をとお目に見つめながら、Aは表情を一変させ、不安げな顔でタブレットを抱きしめる。

(帝国学園……。あそこには、影山零治という勝利の為なら手段を選ばない男がいる。相当、厳しい戦いになるはず。それに………)

帝国学園に派遣された、Aより一つ年上の先輩。

面倒みが良く、とても足の早い、綺麗な水色の髪の彼を思い出し、Aは心配そうに顔を曇らせる。

｢Aっ！更衣室行こっ！｣

首からタオルを下げ、グローブをはずしたのりかが、Aに明るく呼びかける。

どこか浮かない顔の彼女を心配したのだろう。
訳は聞かずに、ただ笑顔を向けるのりかの優しさに、Aは、心が温まる。

差し伸べられた、傷だらけののりかの白い手を、迷うことなく掴むと、屈託のない笑みを浮かべた。

｢かっこよかったよ！のりかちゃん。｣

｢えへへー。ありがと、A。皆のおかげだよ｣

更衣室へと廊下を並んで歩きながら、繋がれた右手を大きく揺らし、Aが言えば、のりかは心底嬉しそうに、だらしないほどの笑みを零す。

film29 お願い→←film27 努力の実り

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す