愛の権利３＿skab

第104話 ab ページ11

「目黒さん、見てください。
阿部さんのこと今日編み込みにしたんです。
可愛くないですか？」


なんて、いらないお節介というか、なんと言うか。
でも世間から見た俺とめめは、こういうことを求められるようになってしまった、ってことなんだろう。
なんて冷静ぶって理解しようとする反面、気になるのは今、この場に康二がいるってことで。
だってここでヘアメイクさんにのっかってしまえば、康二を間違いなく傷つける。

心臓が嫌な音をたてた。
康二の方を見るのが怖かった。
それからめめになんて言っていいかも浮かんでこなくて。
微妙な間ができた空間に、焦りだけが増していった。


「…うん、すげえ似合う。
さすが阿部ちゃん。」
「あ、ありがとう。
また楽屋でね。」


めめが言葉を選んで発してくれたのが分かって、俺も無難な返事をしてすぐに部屋を出た。
パタンとドアが閉まったのを確認して、小さく溜め息を吐く。

ああ、俺の存在ってなんなんだろう。
本命のプロジェクト、なんて言われながら、結局はファンの子だけじゃなく、メンバーまで傷つけてる。



「阿部ちゃん？」


声をかけられて顔を上げれば、廊下の向こうから来たのは佐久間だった。


「疲れた顔してんね。」
「うん、まあ、ちょっとね。」


さっきまでは佐久間に会いたかったのに、廊下で話せる内容は限られてるし、今は気持ちが沈んでるのもあってか、上手く言葉が返せなかった。


「でも無理して笑われるよりはそっちの方が良いや。
阿部ちゃんすぐ無理するから。
…あれ、ねえそれ、三つ編み？」
「ああ、うん。」


さっきまでは、誰よりも見せたかったんだけどね。
それもなんだか、今は複雑。


「え、何それ可愛い。」


確かにそう言ってほしかったはずなのに。
康二を傷つけてる俺がそうやって言ってもらうのは、自分ばっかりがずるをしているような気がして。


「そうかな。
なんか、勧められるがままにやってもらっちゃった。
じゃあ楽屋戻るね。」
「ん、また後で。」


手短に話を切って、楽屋へそそくさと戻った。

このプロジェクトで失うのは佐久間との生活で、それと引き換えに手に入れるものがあるんだと思っていた。
でも、なんだか。
今は色々な大切なものが、どんどん離れていく気がする。
そしてそれは多分、気のせいなんかじゃ無い。

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