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「……ノックの返事も聞かずに入ったことはマジで悪いと思ってる」
「本音は?」
「ちょっとだけ」
「正直で偉い」
申し訳の程度はどうであれ、そこそこ素直に謝られた。いつの間にか隣にいた五条が私と対面する形で胡座をかいている。ああもう、私までちゃんと謝らなきゃいけないルートに誘導されてしまった……。
「鍵が無くなってるならTPO考えて着替えるべきだった。……嫌な気持ちになるもの見せてごめんなさい」
「その言い草、」
辟易したような重苦しい溜め息が床に流れ落ちて、怒気の籠った睥睨がズキズキと刺さりはじめた。いっけない、理由は分からないけど怒らせてしまったらしい。
「俺が見苦しいもの見て興奮したみたいになるからやめろ」
ええ……それ?
「またその話……なんて返せばいいの?」
「どう思った?」
「は?」
「俺の発 情 材 料 に さ れ て ど ん な 気 持 ち ? 」
五条悟という人間の考えていることはよく分からない。一瞬だけ思考回路が凍結したけれど、即座に放たれた音声が文脈に合うように漢字変換されていった。あーあ、私震えてる。話の方向が見えないと共感してくれる仲間が欲しかった。居る?
「怖い。思い上がるつもりはないけど、ずっと五条がここにいるんだったら、いつか逃げなきゃもっと怖いことされそう」
体調不良以外で赤面した五条を見たのは初めてだし、男子に半裸同然の格好見せたのも五条で初めて。五条の今の表情だって、知らなかったから初めて。
お前、昨日自分の部屋に帰ってから何してたの? ──そんな疑問は、私は五条のことがいつもより怖いと思ってるから聞けなかった。加えて、どういったつもりで五条が今の質問をしたのか分からなかった。真剣に話をしてるんだから、サングラスくらい外せ。
「……そう思われてると思って、やっぱ昨日の夜死ぬ気で我慢してよかったわ」
テレパシーが通じたのか五条は本当にサングラスを外した。え、嘘?
「でもお前が泣いてたのは想定外。意外にも俺ノックの件よりこっちのほうがやっちまったって思ってる。……だから、」
テーブルとベッドの間の空白。五条が後ろに倒れたのを不思議に思う間なく腕が彼方向に引っ張られ、上半身が五条の胸元あたりでほふんと倒れ込んだ。え、近。なにこれ……。
「俺に責任取らせて」
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作成日時:2020年12月30日 22時