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「先生が、先生じゃなかったら良かったのに」
前、そんなことを先生に言ったことがある。
先生じゃなかったら、きっとこの想いは間違いなんかじゃなかった。何事も無く、ハッピーエンドで終わっていた。
「俺が先生やってなかったら、今頃知り合いですらなかったと思うで?」
あの時は、あんな言葉でかわされたけど。先生もきっとあの時……同じこと、思ってたんでしょう?
私と貴方の関係は、生徒と先生。どう足掻いても、この関係は崩れない。
それはきっと、ロミオとジュリエットもそうだった。生まれた時から名前は決まっていて、抗えなくて。
だから志麻は“似てる”って言ったんだよね。肩書きに囚われて動けない私達を見て、似てるって思ったんだよね。
……違うよ、私達はロミオとジュリエットなんかじゃない。似てないよ、全然。
だって、私達の足枷は……あと少しで取れるから。
そうだよ。ロミオとジュリエットに比べれば、いい方だ、こんなもの。だって、この足枷は一生付きまとってくるものじゃない。取れるものだ。
それなら……それなら、どうする?
私は、嫌いなジュリエットと同じ道を辿る?
(ううん、そんなこと……しない)
──だって、悲劇なんて辿りたくないから。
劇は、いつの間にか最後のシーン。仮死の毒を飲んで眠っているジュリエットを見て嘆き悲しむロミオ。
本当なら、ここでロミオが毒を飲んで命を絶つけれど。本気でやってこいと先生は言っていたから。
「……志麻、ごめんね」
聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で志麻に謝り、私はムクリと起き上がった。舞台袖で私達を見守っていたクラスの皆も、きっと結末を知っているお客さんも皆驚いて。空気がざわついている。
でも唯一、志麻だけは全て見透かしたかのように笑って。好きにやれ、と言ってくれて。
(……これが、私のジュリエット)
愛する人の命まで絶ってしまう恋ならば、私は……
「……私と貴方の名前が変わる来世で、また……幸せになりましょう」
“だから今は、私のことなんか忘れて……幸せになって欲しい”
ロミオの手から毒薬を奪い、優しく抱きしめる。
来世で会えるのかなんて、分からない。その時もまだお互い気持ちが残っているのかなんて、更に分からない。こんなもの、綺麗事かもしれない。
(それでも、私は悲劇なんて辿りたくないから)
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