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「え……そうだけど……」
唐突なその質問に、私は困惑しながらもそう答える。
それがどうしたのだろう。どうして私の手を下ろしてまでそんなことを聞いたの?
さっきの言葉……嘘だったわけじゃ、ないんでしょう?
そんな私の気持ちが顔に出ていたのだろう。先生は私の頭をぽん、と撫でて。
「……どうせ、練習ではちゃんとやってなかったんやろ?本番くらい、ちゃんと“ジュリエット”演じてみぃや」
「え……?」
「……さっきの言葉は本当やで。やからこそ、考えんとあかんこと、あるやろ?」
“本番、そろそろ始まるし……化粧直す時間もいるやろうから、もう行ってきぃや”
とん、と私の背中を押してそう言った先生に今の言葉の意味を聞き返そうとすると、劇見に行くから、と言われた後に屋上から追い出されて。
何なの、そう思いながらも時間が厳しくなってきたのは事実なので急いで教室に戻る。
(考えないといけないことって……なに?)
化粧を直して、体育館裏の控え室で幕が上がるのを待つ中、私は考える。
分からない。……先生が何を伝えたいのか、子供の私には分からない。
そんな私の隣に、いつの間にか志麻が座ってきて。
耳かせ、と手招くので言われるがままに耳を傾けると、志麻は小声で。
「……あいつに会ったんやろ?」
「え……なんで、」
「何となく、雰囲気的に」
“前までのお前にちょっと戻ってたから”そんな志麻の言葉にどきりとする。何でこいつはすぐに気付くのだろう。私が自分で分かっていない部分まで見透かしてきて、いつも驚かされる。
「……あんな、俺らがロミオとジュリエットやるってあいつが知ってた理由……俺が言ったからやねん」
「……え?志麻が言ったの?」
「逆に聞くけど、どこからあいつが劇の内容知ったと思ったん?」
そう聞かれ、私は口篭る。たしかに、私のクラスに授業にも来なければ学年担当でもない。どこから知ったのだろう、そんな疑問が湧いてくるのはごく普通の話だ。どうして私は気付かなかったのだろう。
それでな、と志麻は続ける。
「俺、あいつに言ってん。“あんたとAに似てるな”って」
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