●猫【O】 ページ8
猫は、家の中で一番心地の良い場所を知ってるらしい。
ポカポカと陽の当たる窓辺とか。
クーラーの風が良い感じに当たる床とか。
飼い主の膝の上とか。
智くんは今日も日当たりの良いベランダの掃き出し窓の前にコロンと寝転がってる。
猫のように丸くなって。
「こんな所で寝られると、ちょっと邪魔なんだけどな」
「でもここが一番きもちいい」
「そうかもしれないけど。蹴っちゃうよ？」
「蹴ってもいーよ」
洗い上がった洗濯物が入ったカゴを持ってる私を見上げて、ンフフと笑う。
その緩い笑顔に思わず私も笑って、コンコンと爪先で智くんの背中をつつく。
彼はクスクス笑いながら、私がベランダに出られるようにちょっとだけ移動した。転がりながら。
智くんとは、付き合ってもう四年くらい経つ。
気が付くと一緒に居て何となく付き合ってた感じだからハッキリした記念日みたいなのも無い。
大学生の時にバイトしてた居酒屋さんで知り合った同い年の彼。
厨房で働いてた智くんは、魚を捌くのが上手だった。
ベランダで今、私は智くんの下着を干してる。
でも別に同棲してる訳じゃ無い。
お互い社会人になって平日になかなか会えなくなったから、週末はどちらかの家で過ごしてるというだけ。
だけど、長年付き合った今でも週末を楽しみに仕事を乗り切れる。
別に何をする訳でも無いし、どこへ行く訳でも無いけど。
洗濯物を全部干して部屋に戻ると、智くんが掃き出し窓に背中を凭れさせて座ってた。
「あれ？もう寝ないの？」
「うん」
「そっか。じゃあ、そろそろお昼ご飯にする？」
「ねぇ」
「ん？」
「ちょっと、おいで？」
智くんがヒョイヒョイと私を手招く。
「どうしたの？」
「良いから良いから」
持ってた洗濯かごを床に下ろして彼の傍まで行くと、手首を掴まれ引っ張られた。
智くんの立てた両脚の間で、後ろから抱き締められる。
肩に彼の顎が乗ってる。智くんは少しだけ、甘いミルクの匂いがする。
「Aちゃん」
「...ん？」
「元気無いでしょ」
「え...？」
ふふふ、って小さく笑う智くんの声。
思わずフゥ...と息を吐き出してしまう。
バレてないと思ってた。
実は昨日、仕事で失敗してかなり落ち込んでいた。
だけどせっかく二人で過ごせる週末にそんな気分を持ち込みたくなくて、出来るだけ何も無かった顔をしてたつもりなのに。
智くんが私の頭の上に乗せた掌を、ポンポンとリズムをとるように跳ねさせる。
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めぐお(プロフ) - 久しぶりに読んだイロコイ。やっぱり大好きなお話です。残してくれてありがとうございます。 (2022年9月16日 16時) (
レス) @page47 id: 17cbbe6ec7 (このIDを非表示/違反報告)
莉依(プロフ) - 何度読んでも、やっぱりイロコイのお話は良い。大好き。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: c571097cf8 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 結城ちゃんがビール飲めるようになってることに感動です( ；∀；) (2018年8月24日 15時) (レス) id: f393ece0e8 (このIDを非表示/違反報告)
mama(プロフ) - やーっと読むことができました。先生の『行間を読みなさい』が久々に聞けてドキドキしちゃいました。それぞれの恋のはじまりが丁寧に伝わりました。もう、恋をする年齢ではないけれど、お話の中では恋をしていきたいな。レイさん、いつもありがとうございます。 (2018年8月14日 6時) (レス) id: dc084211e8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - イロコイ…続きが拝読出来て感動♪それと大野さんの「ともちゃんが猫を拾ったあの時、おれは恋を拾った」に心臓がドキューンと殺られたｗｗｗ (2018年8月8日 21時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2018年5月21日 18時
