●色恋ライン【N】 ページ43
ここは居心地が良い。
四畳程の部屋の両側にはアイアンで出来た本棚があって、そこに並ぶのは文庫本。ラインナップは時々変わる。
本棚に挟まれるように机があって、私はそこに座り雑誌を開いていた。
本の匂いと、煙草の香り。
少し前まではここは緊張するだけの部屋だったのに、慣れるって恐ろしい。
勝手に入ってて良いよと私にも解放してくれてる彼の書斎は、私のお気に入りの場所にもなっていた。
「何読んでんの」
雑誌の所々に付箋を貼っていた私の背中に覆い被さるように、彼が背後から手元を覗き込んで来る。
「うん、お部屋をね」
「部屋？」
「そろそろ家を出ようかなぁ...と思って」
就職してからも、私は実家に暮らしていた。
別に親から「早く出て行きなさい」とか言われてる訳でも無いけど、いつまでもこのままじゃダメだよなぁと、何となく漠然と思っている。
まず手始めに、部屋探しから始めてみた。
「一人暮らしするわけ？」
「うん」
「実家暮らし、ラクじゃない？」
「んー...」
仕事からクタクタで帰っても夕飯が用意されてあるし、洗濯物だって洗ってくれるだけじゃなく畳んでくれている。
危うく寝坊しそうだった時だって、お母さんが間一髪で起こしてくれるから仕事に遅刻した事は無い。
「何か、甘えてばっかりじゃいけないなぁって思って」
「Aは甘えてんの？」
「いろはちゃんの話を聞いてると、甘えてると思う」
大学を卒業してすぐに一人暮らしを始めたいろはちゃんは、色々と大変らしい。
夜ご飯はお弁当で済ませる日の方が多いし、洗濯物なんか気が付いたら山のようになってて下着が足りない日もあったとか。
だけど人はそうやって自立して行くんだろうなと思ったら、私はまだまだ子供だ。
チラリ、彼の横顔を見る。
夜だからちょっと髭が伸びてる。相変わらず、彼は大人だ。
「でもちゃんと生活費も家に入れてんだろ？」
「それはそうだけど...生活費以上の事をして貰ってる気がする」
「まぁ、それはそうだろうけど」
フフ、って笑った彼が「とりあえず、こっちおいでお嬢さん。ビールでも飲みませんか」と私の頭にポンと手を乗せる。
「飲みます！」
そう応えると頭のてっぺんにキスをした彼は、部屋を出て行った。
薄手の長袖Tシャツを纏った背中。
夏エアコンでキンキンに冷やした部屋で長袖を着るのが好きだと言っていた。
「捻くれ者だね」と言うと、「お前もそれが好きになるよ」と言われた。
今、私も肌寒い部屋で長袖を着ている。
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めぐお(プロフ) - 久しぶりに読んだイロコイ。やっぱり大好きなお話です。残してくれてありがとうございます。 (2022年9月16日 16時) (
レス) @page47 id: 17cbbe6ec7 (このIDを非表示/違反報告)
莉依(プロフ) - 何度読んでも、やっぱりイロコイのお話は良い。大好き。 (2019年1月8日 0時) (レス) id: c571097cf8 (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - 結城ちゃんがビール飲めるようになってることに感動です( ；∀；) (2018年8月24日 15時) (レス) id: f393ece0e8 (このIDを非表示/違反報告)
mama(プロフ) - やーっと読むことができました。先生の『行間を読みなさい』が久々に聞けてドキドキしちゃいました。それぞれの恋のはじまりが丁寧に伝わりました。もう、恋をする年齢ではないけれど、お話の中では恋をしていきたいな。レイさん、いつもありがとうございます。 (2018年8月14日 6時) (レス) id: dc084211e8 (このIDを非表示/違反報告)
とも(プロフ) - イロコイ…続きが拝読出来て感動♪それと大野さんの「ともちゃんが猫を拾ったあの時、おれは恋を拾った」に心臓がドキューンと殺られたｗｗｗ (2018年8月8日 21時) (レス) id: bd0ebe94fc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：rei
| 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?t=reika72
作成日時：2018年5月21日 18時
