スパイダー【ars M.A】 (ページ7)

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トページ7

「カズくん！」
「だからノックしろっつってんだろ！」

バーンとドアを開けると、小学生の頃から使ってる学習机の椅子に体育座りしてゲームをしてたっぽいカズくんは、そのままの姿勢で俺を睨んだ。

「俺、あの子にピアノ教えて貰えるかも！」
「は？」
「ピアノの先生になりたいから、今はチビッコ相手にレッスンの練習してるんだって」
「お前はチビッコなの？」
「違うんだけど、違うんだけど！ピアノ弾きたいから教えてってお願いしてみたの」
「はぁ？まー君が『ピアノ弾きたい』だと？」

カズくんがすっげぇ怖い顔する。
思わず後ずさってしまった。

「お前オレのかーちゃんの教室、何ヶ月通った？」
「...三ヶ月」
「しかも最後の一ヶ月なんて、ほぼ来てないよな？」
「...うん」
「辞めた理由何だっけ？」
「......」
「『ピアノなんか弾きたくない！』だっただろうが！」

柴犬みたいなカズくんが、ドーベルマンみたいになった。
超怖い。牙剥いてガルガル言ってる。...みたいに見える。

そう、カズくんの言う通り。
俺は小学生の頃に、カズくんのおばちゃんの教室でレッスンを受けた。
動機はピアノ弾いてるカズくんがすっごく格好良く見えて、俺も格好良くなりたい！って思ったから。
でも全然弾けなくって、どうしても面白いって思えなくって、外で遊んでる方がずっと楽しいじゃーんって思ったら更にピアノの練習が嫌になって。
三ヶ月後にはレッスンがある日に「ピアノなんか弾きたくない！」って大声で叫んで、プチ家出した。

俺のその大声はカズくんちまで響き渡ってたらしく、翌日うちにやって来たカズくんのおばちゃんは俺に「無理させちゃってたんだね、ごめんね」って優しく謝ってくれて。
でも母ちゃんは申し訳無さそうに「ホンットにごめんね」って、おばちゃんに謝ってた。
その時一緒について来てたカズくんは、俺に向かって「『ピアノなんか』って、言うな」ってその時も怖い顔してたっけ。

「あの時はごめんね...」

思い出して謝ったら、カズくんはフンっと鼻を鳴らした。

「で、お前は本当にピアノ弾きたくなったの？」
「...正直言うと、思わず言っちゃったってゆーか...」
「はぁ？ウソついたのかよ。その子のレッスン受けたいから？超不純な動機」
「嘘...って言っちゃったらそうなんだけど...」

立ちっぱなしだったから、ベッドに腰掛ける。

「でもね、とびっきりの嘘だよ」

俺は、あの子にとびっきりの嘘をついたんだ。