スパイダー【ars M.A】 (ページ18)

今日:4 hit、昨日:7 hit、合計:312,050 hit

ッページ18

ワルイオトコになる宣言してから、俺はちょこちょこ先生にアピールしてみるようになったんだけど、手応えあるか？って言われると、あんまり無い。

「先生って可愛いね」

意を決して言ってみた口説き文句も、「雅紀くんの方がずっと可愛いけどね」なんて悲しくなるよーな言葉が返ってきたし。
可愛いなんて言われても男は全然嬉しくないのに。
しかも、自分が年下って事を思い知らされた。

「先生、美味しいケーキ食べれるお店見付けたんだけどさ...」

心臓バクバクしながらデートに誘ってみようとしたら「どこ！？教えて！スイーツ食べ歩く友達が居るから行ってみる」なんて、最初から俺と行くなんて選択肢は無い答え。

ある時はレッスン中に、先生の手に触れてみた。
先生は驚いたように目を開いたから「あ、もしかしてドキッとして貰えた！？」って思ったのに。

「雅紀くんの手、あったかいね！」

先生が笑って言ったのは、そんな言葉。
そして「私、末端冷え性だから。ほら」って冷たい手で俺の手に軽く触れて、すぐに離れた。

俺なんて全然眼中に無いのかな...。
やっぱり、大人の男の方が魅力あんのかな...。
もう疲れて来たなぁ...。

そんな風に思い始めた頃。
土曜日の夕方。

俺は自転車で駅前の本屋さんまで漫画を買いに行って。
帰りにコンビニでジュース買って飲ーもぉって思いながら本屋さんを出たら、先生が目の前の道を歩いてた。

そっか。
ご近所さんでは無いけど、最寄り駅は同じだ。

もしかすると、これまでも俺と先生はすれ違ってたのかもしんない。
でもその存在と出会うまでは、それって景色でしか無くて。
だけど出会ってしまったら、何でも無い景色の中から浮かび上がるようにその人だけを見付けてしまうんだ。

俺は本屋さんの前に停めてた自転車に跨って、先生に近付いてみる。

「せーんせ！」
「あっ！雅紀くん！ビックリしたー」

アハーって笑う先生に、やっぱりドキッとしてしまう。
ワルイオトコするの、疲れて来てたのに。

「先生、出掛けてたの？」
「うん」

デート...だったのかな...。
そう思ったら、胸がジリジリして来て俺の中のワルイオトコがもうちょっと頑張らない？なんて囁いた気がした。

「ねぇ、先生」
「ん？」
「家まで送るよ」
「えっ？アハッ、ありがと！でも大丈夫だよ？」

先生の腕を掴む。

「俺が送りたいの。年下のワガママ、きいてよ」

晴れた夕方の空の下で、俺は精一杯ワルイオトコになる。