KING【ars M.A】 (ページ7)

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れページ7

コンビニに車を停めると、風間さんが「じゃあちょっと買い物して来るから」と一人で出て行った。

何となくその背中を見送って、フゥと一息。

「Aちゃん」
「あ、はい」

バックミラーで後部座席を見ると、社長もバックミラーを見ていて鏡越しに目が合う。
今日は、黒いパーカー。
いつもラフな格好で、仕事に出て来る人。

「どう思う？」
「え？何がですか？」
「結局このシュチュエーションって、萌える？」
「あ...恋愛ゲームですね？」

うん、って社長が頷く。

「正直どうなんでしょうか。後部座席と運転席では、こうやってバックミラー越しにしか目を合わす事が出来ませんし...」
「だよねー。でも、逆にそれがドキドキするとか無い？」
「ドキドキ、ですか...？」

バックミラーに映る社長が

「二人っきりだよ？」

口角を、ユルリと上げる。

「初めてだよね」
「え...？」
「二人っきりになるの」
「あ...そう、でしたっけ..」

何かちょっとドキっとしてしまって、鏡越しの社長から目を逸らす。

「ねぇ」

さっきまでより近くに聴こえたその声に、顔を横に向けると

社長が助手席と運転席の背凭れに手を掛けて、後部座席から身を乗り出していた。

顔の距離、数十センチ。
男っぽい香水の匂い。

「恋の予感は、全然無い？」

囁くような、掠れた声。
ふっくらとした唇が、綺麗に笑う。

「後部座席からだって、ここまで近付けるよ」
「......」
「もっと、近付く事だって出来る」

社長が助手席に掛けてた手で

私の頬に触れる。

やっぱり、暖かいのか冷たいのか分からない温度。

その指先が私の髪を拾い、指に巻き付けながらクルリと動く。

「ちょっと、何やってんの」

そこに買い物を終えた風間さんが戻って来て、助手席のドアを開けてシラっと言い放った。

「一歩間違ったらセクハラだからね？ってゆーか、今のは完全にアウトだからね？」
「うるさいなぁ、何でもかんでもセクハラって言えば良いと思って」

ドサっと音を立てて、社長は後部座席に沈むように座り直す。

「大丈夫？風見さん」
「あっ...はい！」

大丈夫じゃ無い。
動悸、ハンパ無い。

何今の。何、今の。
シミュレーションの一環？あ、そうか、それか。

息が荒くなってそうで、必死に息を整える。

恋の予感ってゆーより、何かもう、危機感。
高嶺の花に、心奪われてしまいそうな怖さ。

バックミラーの中の彼は私なんかにはもう興味無さそうに、スマホゲームに興じてる。