KING【ars M.A】 (ページ18)

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「ねぇ、Aちゃん」
「はい」

呼ばれて、社長の元へ行く。

「今日、ご飯でも行かない？」
「...え？」
「俺、焼き鳥食いたいんだよねー」
「焼き鳥...」
「嫌い？」
「いえ！好きですけど...」

チラっと秘書室を振り返ると、社長が「風間ぽんは奥さんが夕食作って待ってるからね」と言う。

「どうして私と...」
「ん？Aちゃんと焼き鳥食いたいなーと思ったから」

ニッコリ。

あぁもう。この笑顔がダメなんだって。

「行くよね？」

操られてる。
その目尻の皺に、真っ黒になる細めた目に、キュっと上がった口角に、操られる。

「...はい」
「決まり」

満足そうに、社長が頷く。

嬉しいはず。
社長に誘われるなんて、嬉しいに決まってる。

だけど、さっきの『オモチャ』って言葉がビックリする位、重く胸の底に沈んでる。
大野さんの声は、あんなに軽やかだったのに。
私は、社長の暇潰しに使われてるんだろうか...なんて考えてしまう。

仕事を終え、風間さんと別れ私と社長はタクシーに乗る。
理由は単純。
お酒を飲むから。

着いたのはオシャレなお店で、本当にここで焼き鳥が食べれるの？って思ったけど

中に入ると、タレの焼ける良い香りが漂っていてちゃんと焼き鳥屋さんなんだなと実感させられた。

「いらっしゃーい。あ、社長！」

カウンターの中の、気の良さそうなお兄さんが社長に声を掛けて来た。

「フフッ、自分も社長でしょ？」
「もぉやめてーや！僕の店と相葉くんの会社を一緒にしたらアカンよー！」

顔をくしゃくしゃにして笑う。この人も笑顔が武器になりそうな人。

「Aちゃん、コイツ大学の後輩の大倉」
「こんばんは、大倉ですー」

関西訛りで人懐っこく喋る。
一瞬で、親しみが沸く。

「どうぞどうぞ、座ってな？あ、個室の方がえぇ？」
「ううん、ここで良い」
「ホンマ？じゃあ、僕が精一杯おもてなしするわ！」

社長と並んでカウンターに座って、ビールで乾杯。

お任せで頼んだから大倉さんが「オススメのん」って、色々な串を出してくれる。

どれも美味しい。
お酒も進む。

アルコールが入ったからか、私の気持ちも緩んでゲームの話で盛り上がって

純粋に楽しくて。

身分違いの恋だとか、『オモチャ』って言われた事とか、忘れかけてた。

「Aちゃん」
「はい」
「楽しい？」
「はい！」
「フフッ、俺も楽しい」

蕩けたような笑顔。

朝に見る、眠そうな笑顔に似てる。
私が一番可愛いと思ってる笑顔。