KING【ars M.A】 (ページ16)

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民ページ16

波の音が、絶え間無く耳を流れて行く。

「帰ろうか」
「...あ...はい...」

手首を掴まれたまま、海岸を歩いて車に戻る。

当然のように社長が運転席に乗るから、私は助手席。
車は、静かに走り出す。

...『欲しい』の意味が、よく分からない。
面接で『欲しい』と思ったってコトだから、会社に欲しいと思って貰えたって事で良いんだよね？
それ以外の意味は無いよね？...そう、だよね？

あ、これもシミュレーションの一環！？そうか！そうだ！

...って、どうしよう。私、もうこれ手遅れじゃない？手遅れだ。泣きそう。

「Aちゃんちって、どこだっけ」
「...え？」
「家まで送る」
「え、でも車は会社に戻さないと...」
「自分で運転して会社行くから良いよ。風間ぽんには俺から連絡しとくし、明日はゆっくりおいで？」

ポン、と頭を撫でられる。

「あの...」
「ん？」
「王様は、簡単に女子の頭を撫でたりしたらいけません」
「王様？」

えぇ？って社長が笑ってる。

「平民は勘違いします。勘違いして、勘違いに気付いて、...そして泣くんです」
「フフッ、何の話？」
「身分違いの恋のゲームがあったら、そんな台詞欲しいなぁ...って話です」
「なるほどね。参考にするよ」

夜の街を走る車の窓に映る私は、自分でも恥ずかしくなる位に

認めたくないのに、認めなきゃいけないって思ってしまう位に

恋をしてしまっていた。

いつから惹かれていた？と考える。

メディアで騒がれてる彼を見ても、特に何も思わなかった。
インタビュー映像を観ても、確かにイケメンだなって思った程度で。

面接の時も、生だと更に格好良くて何なら迫力あるわ！とか思ってたけど、それだけ。
運転手になってからも、後部座席の彼とはほとんど目も合わなかったし。

いつからなんだろう。

『恋の予感は、全然無い？』

そう、訊かれた時だろうか。

彼の掌が、頬を滑った時。
髪に触れた時。
あの時に、私は堕ちた？

...馬鹿だ...。

恋愛ゲームのシミュレーション。
リアリティ無い、ダメだこりゃ！なんて思ってたくせに。

「Aちゃん？」
「やっぱり私が運転します」
「え？」
「コンビニがあったら入って下さい。そこで交代しましょ？」

助手席なんかに座っちゃったからいけないんだ。

私は運転手。
貴方は、雇い主。

コンビニの駐車場で交代する時、私は後部座席のドアを開ける。

貴方は一瞬、眉を顰めたけど

「ありがと」

そのまま、後部座席へ乗り込んだ。