KING【ars M.A】 (ページ11)

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のページ11

隣に社長が乗っている。

それだけで、いつもの何十倍って緊張する。

「Aちゃん」
「はいっ！」
「フフッ、そんなガチガチにならないでよ」
「...はい」
「可愛いけど」
「はい！？」
「アハッ」

笑い事じゃないよ...
運転中に動揺させないで欲しい...
アナタの命預かってんだからね！こっちは！分かってんのかな！？...なんて心の中で怒ってみる。

本当は、社長の軽口に情けなくもドキドキしてしまって、もうやめてくれー...って気分。

なのに社長は、楽しそうに鼻唄なんか歌っちゃって。
私の緊張だけがどんどん高まって行く。

今日の社長は会食があるからか、珍しくシャツにジャケットを着てる。

約束のレストランに着くと、社長は自分でドアを開け車を下りた。

「あ、すみません！」
「何が？」
「ドア...」
「良いよ、だってAちゃんの仕事じゃないでしょ？」

確かにいつも風間さんがやってる事だけど、彼が居ないなら私がするべき仕事だ。
乗車の時は社長に翻弄され、降車の時はウッカリしてるなんて...！ポンコツ！

「女の子に、こんな事させられないよ」

慌ててる私に、ニッコリ。

うぅ...心臓痛い...。
本当に武器だ、この人の笑顔は。操られてる感、凄い。

どうやらレストランに先に着いたのは私達の様で、個室に通され二人きり。
テーブルの横に立ってたんだけど、「座ったら？」と促されて隣に腰掛ける。

「Aちゃんはさ」
「はい」
「ゲームが作りたくて、うちの面接受けたの？」
「はい！勿論です！あー...だけど、AIBER GAMEの一員になれるなら経理でも庶務でも嬉しいなって思ってました」

それだとOLの頃と変わらないだろって思われそうだけど、自分の好きな物を作ってる会社で働けるなんて全然気持ちが違う。

「あ、でも運転手は予想外でした」

アハ、って笑うと社長もフフ、って笑う。

「しかも被験者だしね」
「被験者？」
「シュミレーションの」
「...あぁ！でも、そのシュミレーションは終わりましたよね？」
「え？」

社長が目を丸くする。
元々丸いのに。

「だって、あの位置関係ではなかなか萌えるような事は起きないと言うか、ちょっと無理があるのかなぁ...という話を...」
「でも俺、近付く事も出来るって言わなかった？」
「...え...」
「終わったなら、どうして俺はまだAちゃんを運転手にしたまんまなの？」

スルリと、社長の指が私の鼻を撫でる。

「まだ終わってないよ？」

その指が、唇の上でトントンと跳ねた。