Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ4)

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284.絶望感。ページ4

雅紀くんは細いけどたくさん食べる。
そして、食べるスピードも早い。

今も私がやっとオムライスを半分食べた所で、雅紀くんはもう食べ終えてお水を一気飲みした。

でも別に私を急かす訳でも無い。
奥さんやマスターと世間話とかしてる。

時々、私に「だよねぇ？」なんて話を振ってくれて。
しかも口に物が入ってても、頷くか首を振れば答えられる事ばかり。

優しいなぁ...と思う。

何かもう、別にどうでも良いのかも...って思ってしまう。
仮に、本当は伊織さんとの間に何かあったんだとしても。
それでも雅紀くんが私と居る事を選んでくれたのなら、もうそれだけで充分かなぁ...なんて。

分かってるけど、こんなの不幸女の考え方だって。
でも、好きだから私が雅紀くんと離れたくない。

あぁ...依存してる...。
良くないなぁ...と思いながら、雅紀くんを見ると鶴を折ってる。

長い指が器用に嘴をピンと尖らせて、出来上がった折鶴を私に見せた。

「Aちゃんが持ってて」
「え？」
「俺が潰さないように見張っててくれるんでしょ？」

そう言えば、前にそんな話をした。
その時に貰った折鶴は、部屋のチェストの上に置いてある。

最後の一口のオムライスを口に運んでから、折鶴を受け取る。
まだモグモグしてる私に、雅紀くんは「中途半端にはしないよ」と言った。

「中途半端...？」

オムライスを飲み込んで訊き返しても、雅紀くんは微笑んで頷くだけ。

「そろそろ行こっか」
「あ、うん」
「...あっ！」
「え？どうしたの？」
「伝票でソレ折っちゃった...」

彼の視線は私の手元にある折鶴。

「えっ！？これ、でんぴょ...」
「おばちゃーん！ごめん！伝票ダメにしちゃった！」

奥さんが「どうやったら伝票がダメになるのよ！」って笑った。

結局、伝票が無くても頼んだのはオムライス2つだし何の問題も無くお会計をして

私と雅紀くんは玉屋を出た。

「Aちゃん、まだ時間大丈夫？」
「え？うん、大丈夫だけど…」
「一緒に行きたい所あんの。行きたいってゆーか、見せたいってゆーか、聞かせたいってゆーか…まぁとにかく連れて行きたいの」
「...どこ？」
「内緒」

唇の前に立てた人差し指。
うぅ...格好良い...。
私きっと、この人にならどんな酷い事されたって許すんだ...。

ちょっとだけ軽く絶望。
でもその絶望感は、何だか笑えた。

雅紀くんちで車に乗って、私はどこに行くのかも分からないまま窓の外を流れる景色を眺めた。