Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ23)

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303.ゴメンネ。ページ23

「あの...智さん」

私が声を掛けると、智さんが「ん？」とこちらを見た。

二宮さんは何も言わずにそこを離れて窓辺に立ち、外を眺めてる。

「これまで本当にお世話になりました。たくさん、勉強もさせて貰いました」
「おれは何もしてないよ」
「いえ...智さんには感謝しかありません。本当にありがとうございました！」

頭を下げると、その頭をポンポンと撫でられた。

「おれの方がありがとうだから。それと、ごめんね、だね」
「...え？」
「おれのせいで振り回しちゃって、ごめんね」

上げた頭をブンブンと振る。

「ここでのお仕事は、とても楽しかったです...」

私が言うと、智さんの口元に犬歯が見えた。

「翔くんは仕事に関して厳しいかもしんないけど、きっと学べる事も今までの何倍もあると思うから」
「......」
「その『仕事は楽しい』って気持ちを持って、頑張ってね」

喉の奥がツーンと痛くなった。

「ニノォ、今日からよろしくねー」

窓辺の二宮さんが振り返って

「本日よりは、ワタクシに何なりとお申し付けください」

腰を綺麗に折ったお辞儀。
秘書と執事を間違えてない？

「だた、オレはでも子みたいに甘くねぇからな？」

あ、ソッコーで通常仕様の二宮さんになった。

「えー。朝のココアは淹れてくんないの？」
「この部屋にポットくらい用意してやるから自分で淹れろ」
「キャラメルの補充は？」
「通販で大量買いして置いとくから、自分でやれ」

智さんが悲しそうな顔で私を見た。

「二宮さん！ココアもキャラメルも智さんの秘書の大切なお仕事です！」
「お前が甘やかすから、この人こんな甘ったるい顔になってんだろ！」

「顔は関係無いでしょー！」って智さんが喚いてる。

「智さん、二宮さんは意地悪だけどお仕事はきっと凄いと思うから頑張ってくださいね」
「うん、意地悪されてもおれ頑張る」
「はい、意地悪だけど」
「意地悪だけど」

二宮さんが「コソコソ悪口言ってんじゃないよ！」って、私たちを指差した。

「あ...、では私はそろそろ社長室に戻りますね」
「うん。たまにはここにも遊びに来てね？」
「はい、お邪魔にならないのでしたら。珍しいキャラメル見付けたら、持って来ます」
「ふふっ、ありがと」

私が部屋を出る時、智さんは優しい顔で手を振ってくれて

二宮さんは、あのちょっと憎たらしい笑顔で「おれが大野さんを鍛え直すから安心して？」なんて言ってた。