Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ11)

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291.湯けむり。ページ11

なんだか成り行きで一緒にお風呂に入る事になった今、私は湯船の中で雅紀くんの胸に背中を凭れさせる。

雅紀くんとお風呂に入るのは初めてで最初こそ緊張したけど、彼があまりにも自然体過ぎてちょっと面白くなって私もリラックス出来た。

「今度、あれ買おうよ。何かでっかい入浴剤。爆弾みたいな」
「...あ！バスボム？」
「それ！ボムボム」
「バスボムね」

クスクス笑い合う。

「ねぇ、雅紀くん」
「ん？」
「ひとつだけ、訊いても良い...？」

2人とも気が緩んでる時だから、気になってる事も今なら訊けるかも...と思った。

「雅紀くん、本当に...伊織さんを邪魔者だなんて思ったの...？」

あの時。
少し、雅紀くんを怖いと思った。

私だっていつ、伊織さんの立場になるか分からない。
雅紀くんが私から興味を無くした時、彼は何の迷いも無く私を突き放してしまうのかもしれない。

「んー...邪魔者ってのは、言葉が乱暴だったかもしんないね」
「.....」
「ホントは、分かんないでも無いと思った。伊織さんの気持ち」

私の肩に手で掬ったお湯を掛けながら、雅紀くんが話す。

「きっとね、俺と別れてから伊織さんはそれなりに幸せにやってたんだと思うの。だって旦那さん伊織さんの事、本当に愛してるんだなぁ...って感じだったし」
「...そうなんだ...」
「伊織さんが俺と逃げたのは自分の責任でもあるって、言ってたしね」

肩に、お湯が流れ続ける。

「だけど、何年後かに今度は自分が旦那さんに浮気されて。寂しくなったんだろーなぁ...って」
「...うん」
「誰かに優しくされたいって思ったんだろーなぁって。その相手に、俺が調度良かったんだと思うの」

雅紀くんが、後ろから私の肩にキュッと抱きついてきた。

「でも、俺にとってそれは一番有り得ない行動だった」
「.....」
「Aちゃんまで巻き込んで、...あの時の約束も破って。何してんだよって、何か...もう」
「.....」
「お願いだから後悔させないでよって、思った」

後頭部に、雅紀くんのおでこがコツンと当たる。

「...あの時の俺に、やめとけ！って言いたくなるような気持ちにさせないでよって...」

人生を賭けた彼の恋は、雅紀くんの中でやっぱり大きくて。
でも彼はその恋心自体は後悔してなくて。

ただただ、人の人生を狂わせてしまったかもしれないって事を重荷にして、ここまで来たんだ。

.....私も重荷を抱えてた。

その私の荷物を下ろしてくれた人が、背中で息を吐き出す。