Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ10)

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255.HUG ME。ページ10

雅紀くんの腕に少しだけ力が入った。

後頭部に触れてる彼の口から

「...ごめんね、Aちゃん」

繰り返される言葉。

どうして謝るのかを知るのが、何だか怖くて

寝てるふりを続けようと、もっと強く目を瞑った。

「Aちゃん、起きてるでしょ？」
「...えっ？」
「息遣いが変わったもん。寝息じゃ無くなった」

寝てるかどうかの判断が息遣いだなんて、私と同じなんだ...なんて。
こんな些細な事ですら、やっぱり嬉しいんだから。
こんな心境の朝だって、やっぱり嬉しいんだから。

雅紀くんがシーツの中で、私の身体をくるりと自分の方向へと向けた。

目の前にある彼の目は、やっぱり寝起きのボンヤリしたそれじゃない。
黒目がちな中の白目は、少しだけ赤くなってる。寝てない目。

雅紀くんの親指が、私の瞼をスルっと撫でた。

「...腫れちゃったね」
「......」

スルスルと、瞼の上を指が滑る。

「泣かせちゃって、ホントにごめん」
「...え...？」
「一番泣かせたらいけない子なのに...」

ギュウ...って胸の中に閉じ込められる。

鼻が雅紀くんの胸にピタっとくっついて、ちょっと苦しい。

「すぐAちゃんを追い掛けられなかった」
「......」
「ニノに先越されたし...」
「...二宮さんは追い掛けて来たって言うか、私が荷物を全部忘れてたから仕方無くって感じで...」
「俺、それすら気付いてあげられなかったんだよ？...最低じゃん」

雅紀くんがスゥっと大きく息を吸い込んで、フゥ...と吐き出した。

「......伊織...さん、は...雅紀くんに会いに来たの...？」

抱き締められてて顔が見えない今なら訊ける。

そう思って訊いたのに、口に出した瞬間、もう訊いた事を後悔してしまった。

「あ...、やっぱ良い！言わなくって良いよ！」
「Aちゃん...」
「どっちかと言えば、聞きたくないかも。私、何で訊いちゃったんだろ。アハ」

笑って誤魔化すと、雅紀くんが少しだけ腕の力を緩めて私の顔を覗き込むようにする。

私の顔に掛かってる髪を指で掬って、そのまま頭を抱えるようにして撫で

「俺を信じてて」

聴きたかった言葉。
大好きな声。

「......うん」
「うん」

雅紀くんの目尻に、キュっと皺が寄る。

「大好きだよ？」
「...フフッ、恥ずかしいよ」
「だって言わなきゃ伝わんないでしょ？」

大好き、って囁くように言った雅紀くんの唇に

今朝は私からキスをした。

大好き、って小さく言葉を添えて。