Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ4)

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249.視線の先。ページ4

ニュータイプの雅紀くんが、音楽に乗る。

フロアが波になる。

隣では二宮さんが煙草を燻らす。
お腹に響く音は、気持ちが良い。

たくさんの腕の向こう側で、雅紀くんは楽しそうに笑う。

DJドクターマサキも格好良かったけど、やっぱり普段のDJ姿の方が格好良い。
...とか、考えただけでもこの隣の人に心を読まれそうで怖いから表情に出さないように気を付けた。

プレイを終えた雅紀くんがベースの下までやって来て私と二宮さんを見上げ、カウンターの方を指差しながら「あっち行く」と口パクしてからそっちの方へと歩いて行った。

「相葉さん、あっち行くらしいよ」
「喉渇いたんでしょうね」
「オレもビール！」
「私も何か貰お」

飲み物が無くなってた私達も、カウンターへと向かう。
オーバーサイズのトレーナーを着てる二宮さんの後姿は高校生みたい。

「二宮さんって、補導されませんか？」
「はぁ？お前、いくつの男捕まえて言ってんのよ」

呆れたように笑った表情は、確かに大人だ。

「時々コンビニで煙草買う時に身分証明書出せって言われるけど」
「ほら、やっぱり」
「何ででも子がドヤ顔になんの」

カウンターでは雅紀くんが座ってお水を飲んでる。

「お疲れ様でした」

私が隣に座ると「楽しかった」って眼鏡をはずして、テーブルに置く。

「潤くん、ビールちょーだい」

雅紀くんの向こう側では二宮さんが潤さんに注文中。
すぐに出て来たビールを美味しそうに飲んでる。

雅紀くんは、フライヤーを使って折鶴を折ってた。

嘴の先までピンと綺麗に折られた鶴が眼鏡の横に並ぶ。

「雅紀くん、眼鏡...」
「あ、気付いた？」
「うん」
「フフッ、嬉しそう」

...いかんいかん...ニヤニヤが止められない。

案の定、雅紀くんの背中越しに二宮さんが私を気の毒な子を見るような目で見てる。

その目が

私の後方を見た。

瞬間、彼の表情が変わった。

少し慌てたように二宮さんが潤さんを見たけど、それ以前から潤さんの視線も私の後方で止まっている。

...何か、起きた。

私がそう感じたのと

「まー君」

自分の後ろから、その声が聴こえたのは、多分同時。

聴き慣れてない呼び方過ぎて、誰が呼ばれてるのか一瞬分からなかった。

あぁ...雅紀くんの事だ、と理解したのは

頬杖をついて折鶴を指先でつついてた雅紀くんが、顔を上げたから。

ゆっくり声の方向を見た彼の掌の下で折鶴は

音も無く、潰された。