Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ23)

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268.興味は無い。ページ23

その手を、私の後ろにしゃがんだ智さんに掴まれた。

「泊まってけば？」

目尻が緩く下がる。
だけど、口元は少しも笑ってない。

「...えっ？」

手の中からスマホを取り上げられる。

「タクシー、勿体無いって」
「いや...でも、同じ服で出社は...ね？さすがにマズいってゆーか...」

アハ、って取り繕うように笑うと智さんも、ふふって微笑んだ。

「だったら、始発で帰ったら良いよ。それなら、仕事だって間に合うよね？」
「あ...の、でも...」

智さんがまさかそんな...とは思うけど

お風呂上がりなのか、部屋着で少し濡れた髪の智さんの色気は、怖いくらいで

思わず、ズルズルとお尻を滑らせて後ずさってしまう。

「おれ、ソファで寝るから。Aちゃん、ベッド使って良いよ」
「え？」
「定期もあるでしょ？お金、勿体無いって」

そう言うと智さんは立ち上がって、リビングへと戻って行った。

私も立ち上がり、智さんの後を追う。

「おれ、まだちょっと仕事あるから寝てて良いよ？」
「.....」
「あ、何かパジャマになる服いるよね」
「やっ、そんな！お気になさらず...」
「でもスカート皺になっちゃってるんじゃない？脱がした方が良いのかなー？と思ったんだけど」

さすがにそれはねぇ、って笑った智さんがさっきまで私が寝てた寝室に入って行って

すぐに出て来たその手には、畳まれたグレーのスウェット。
今、智さんが着てる物と同じっぽい。

「ほい、これ着て？サイズは、おれそんなデカくないからイケると思う」
「部屋着はグレーなんですね」
「外用と家用と間違えないようにね」
「間違えないでしょう！」

アハハ！って笑ったら、智さんもケラっと笑った。

「寝室、鍵ついてるから。安心して寝てよ」
「鍵なんて...信用してますから」
「おれ、一応オトコだよ？」

智さんが腰を折って、顔をスッと近付けて来る。

「智さんを信じてます」
「ふふっ。そんな風に言われたら、紳士になるしか無いよね」
「私に興味なんか無いくせに」

笑ってそう言うと、彼は「興味は無いけどさぁ」って折ってた腰を伸ばした。

「始発で帰るなら、もう3時間も寝られないんじゃない？」
「あ...」
「おやすみ、もう寝なさい」
「...はい」

智さんが頷いて、パソコンデスクの前に戻る。

「智さん」
「ん？」
「ありがとうございます」
「気にすんなー」

歌うように返ってきた声に

もう1度、頭を下げた。