Clear‐Crane‐Crime 8th【ars M.A】 (ページ20)

今日:4 hit、昨日:13 hit、合計:1,675,332 hit

265.俺達のさとし。ページ20

「先におれんち寄って良い？」
「え？」
「チャリ、置きたいから」
「あ、はい」
「ってゆーか、もう着いてんだけどねぇ」

そう言って智さんは一棟のマンションの前で自転車を停めた。

櫻井さんちみたいに圧倒されるマンションじゃないけど、オシャレな一人暮らしの人が住んでるんだろーなー...って雰囲気がプンプンしてる。

「ここで待ってて？」

マンションの敷地に智さんが自転車を引いて入って行く。

一人になってスマホを見る。
雅紀くんからのLINEや着信は無い。

「お待たせぇ」
「あ」
「相葉ちゃんから連絡？」
「いえ...」

そ、と短く応えた智さんが「こっから3分くらい」って歩き出す。
彼の後ろをついて歩き、到着したのはお店の外にもテーブルが出してあってビールケースが椅子代わり...みたいなお店。

開けっぴろげな店の中は、平日なのに活気があってガヤガヤしてる。

「2分だった」

腕時計を見て、智さんが笑う。

「Aちゃん、こーゆートコ苦手？」
「全然！ワクワクします！」

おじさん達がいっぱい。
こーゆーお店は絶対に美味しい。そして安い。

智さんがお店に入ると、店員さんより先にそこに居たおじさん達が「さとしー！」って声を掛けてきた。
そんなおじさん達に彼は、はにかむように笑う。

「何だ、さとし！その可愛い子は！」
「彼女かー！？」
「俺達のさとしが女の子と...」

おじさん達、やいのやいの。

「あはは！彼女ちゃうよ。おれの部下」

ちょっと偉そうに言って

「それから、おれはおっちゃん達のモン違う」

犬歯を見せて、タハッと笑う。

慣れた様子で奥へ進み、壁際の席で向かい合わせ。
智さんは、手書きのメニュー表を見てる。

そこにやって来た店員のお兄さんが「さとっさん、今日はハマチがおすすめ」と言いながらおしぼりをテーブルに置いた。

「Aちゃん、ハマチ好き？」
「大好きです！」
「ナマモノ平気？」
「むしろ、お刺身の方が好きです」

そのやり取りを聞いてた店員さんが、「ハマチいっちょー！」と大きな声。

「じゃ、それと生中。Aちゃんは？」
「私も同じで」

すぐに運ばれて来たジョッキを持ち上げた智さんは「乾杯...じゃないのかな？」と呟いて

「お疲れ様」

と、私のジョッキにコツンと当てた。

「お疲れ様です」
「枝豆食べる？」
「はい」

枝豆の入った小皿を私の方に寄せてくれる。

「敬語、無しね」
「えっ？」

智さんが唇に鞘を付けて、枝豆を食べた。