Clear‐Crane‐Crime 7th【ars M.A】 (ページ19)

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229.オトナの事情。ページ19

「雅紀くん、それって...？」
「ん？お医者さん」

そう言って、首に引っ掛けてた聴診器のおもちゃを見せる。

「これ、もう古くなって捨てるつもりだったから最後に着ちゃおうと思って！」

スクラブの裾をキュっと引っ張って、雅紀くんが笑った。

「ズルいよなー、それ全然仮装じゃねぇし」
「仮装だよ？んーと、外科医！」
「今決めてんじゃん！」

二宮さんと雅紀くんがブハハ！って笑い合ってる。

「Aさんも来たんだし、ベース行ってなよ」

潤さんが、ベースの鍵を雅紀くんに投げた。

「ありがと！じゃ、行こっか！」

私と雅紀くんが歩く後ろを、自称『敏腕編集者』の仮装をした二宮さんと並んで歩く。
彼の手にはちゃんと茶封筒。

「二宮さん、今はどんな作家さんを担当されてるんですか？」
「〆切を守らない大御所作家です」
「お仕事、楽しいですか？」
「綺麗なセンパイと一緒に働いてるんで楽しいです」

そんな架空の話をして、クスクス笑う。

「マサキ！お医者さん！？」
「お医者さんごっこしよぉよー！」
「やだぁ！アハハ！」

フロアに出た瞬間、女の子達に雅紀くんが捕まった。
予想はしてたけど...

「女の子がそんな事言うのはハシタナイよ？」

雅紀くんがそう言って笑うと、彼女達は余計に盛り上がってしまう。

見ないように目を逸らす。
二宮さんが、私の肩をポンと叩いた。

「マサキー、先行ってるから鍵ちょーだい」

普段は「マサキ」だなんて呼ばない二宮さんが、雅紀くんの手から鍵を取って私を引っ張ってベースに連れて行く。

ベースに上がると「今日はアイツ目当ての客も多いから、勘弁してやれ」と二宮さんに頭をグシャグシャって撫でられた。

「こないだはアイツ女はお前だけで良いって言ってたし、まぁそれも本音なんだろうけど」
「......」
「でも、オトナだかんね。潤くんに迷惑かけらんないって思ったら、邪険にもできないでしょ？オキャクサマなんだから」

どんな下品なオンナでもね？って、ちょっと意地悪な顔。

「うん。大丈夫！ありがと」
「お前は優越感に浸っとけ！どんなに人気者でも、マサキは私のモンなのよー！つって」
「アハッ、そんな風には思えないです」

ソォっとフロアを見下ろしてみる。

そこでは雅紀くんがたくさんの女の子に囲まれて、写真撮られたり聴診器で遊ばれたり。

「でも子は本当にお医者さんごっこ出来るんだから、良かったな」
「セクハラ」

二人でまた、クスクス笑った。