通訳ヌナと…【Jungkook】

傘 -Jungkook- ページ37

「本当にごめんなさい。本当にありがとう」

「いえ、早く帰って下さい。早く治りますように」


Aさんのあの星柄の黒い傘を持ち、
走りながら何度も振り返り、
その度にAさんに向けて何度もお辞儀をし、
見えなくなっていった若いお母さん。


「風邪…Aさんが引いたらどうするんです？」

傘がなくなり、
お互い着ていたパーカーのフードを被ると、

「でも…赤ちゃん泣いてたし、私まだ風邪引いてないし、それに、グクくんにまた元気貰ったから大丈夫。さ、走ろ！」

と、言って、
急に走り出したAさん。



さっき…
帰ろうと思い、数歩歩いた時、
後ろから子供の泣き声が聞こえて。

振り返ると、
まだ一歩も歩いておらず、
その場に立ったままのAさんが
僕より先に振り返っていて。
傘をさしてないそのお母さんを見ていたら、
Aさんが急にそのお母さんの所に走り、
さっき僕にしてくれたように、
お母さんと子供の上に傘をさした。

僕もなぜかわからないけど
引き寄せられるようにそっちに近づき、
そのお母さんとAさんの会話を聞いていた。

どうやら夕方慌てて子供の病院に行ったらしく、
急いでいたから傘を持たずに出てしまったようで。

風邪を引いていて熱があるらしく、
傘は持ってないから濡れないように頭にタオルをかけていたんだけど、
子供はどうやらそれが嫌みたいで。

タオルを外すと
ヒックヒック…と身体を震わせながら、
次第に泣き声が止んできたので、
Aさんは傘を、そのお母さんに渡した。

最初はお母さんも断ってたし、
傘代と言ってお金を渡そうともしたけど。

全部Aさんは断って、
早く帰って下さい！って、そう言って…


僕の前を走るAさん。
わざとペースを落とし、
Aさんの後ろ姿を見ていた。

どこまで人がいいんだか…
自分だって受験生で、
風邪なんか引いたら大変なのに。

きっと僕だったら…
気にはなるけど、
いつもこういった場面、
人が困っていても、
断られたら…とか、
勘違いだったら…とか、
いろいろ思って何も出来ないのに。

すぐに足が動いたAさん。
この人って…本当にすごい。



「まだ霧雨だからいいけど…ごめんね、傘。グクくん汗かいてるのに…風邪引かなきゃいいけど…」

信号待ち中。
閉まっているお店の屋根になってる部分に立ち、
僕の方を見、
真っ先にそう言ったAさん。



着ていたパーカーのファスナーを下げ、
パーカーを脱ぐと、Aさんに被せた。

パーカー -Jungkook-→←頑張ろう -You-

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