JIYONG -2-

苺ケーキ -Jiyong- ページ42

おもむろに見た、自分の手のひら。
窓ガラスに映る、自分の顔。

見ていると思い出す、これまでの過去の自分。

どうしてこんなことになったのか…
俺も昔はこんなんじゃなかった。

友達と好きな女の子について話したり、
好きな子を目で追ってときめいたり、
初めて手を繋ぐ時は緊張したり、
喧嘩すると世界が終わったような感じになったり。

ごく普通の、周りの男と変わらなかった。

それなのに…
いつからこんな俺になったんだろ。

そして、なってしまった俺の過去は、
どんなに後悔してもやり直せることもなく、
消えることもなく身体と頭に染み付いている。

それなのに、この手で、
今もなおAに触れたいと思ってしまう。

そばにいて欲しいと、
また前のように俺を見て笑って欲しいと、
変わらず願っている俺がいる。

どうしたって忘れられなくて、
忘れられないというか消えなくて、
いなくなった現実を、まだ受け入れられずにいる。

けど季節は変わり、
Aがくれたグレープティーもなくなり…

そういえば、
町はいつの間にかクリスマスの装飾で溢れてた。

去年のクリスマス…
どう過ごしたっけ？

ふと思い出そうとしたけど、
浮かんだのはまたAの笑顔だった。

なんのCMだったっけ？
Aの家にいる時に一緒に見たCM。
サンタクロースがサーフィンをしているというもの。

浜辺にはたくさんのサンタクロースや、
サンタの服を着た犬がパーティーをしていて、
そんな何もない、他愛ないことでも、
Aとは、いつも話が続いた。

去年のクリスマス何してた？
サーフィンしたことある？
犬には服を着せる派？着せない派？
クリスマスケーキは…あ……

そう。

クリスマスケーキは絶対に何が何でも、
苺がいっぱいのったホールケーキ。
マジパンはあまり好きじゃないから、
ケーキにのせるサンタや家はチョコがいい。

ショートケーキはこれくらいの大きさだけど、
クリスマスは特別だから1／4食べたい。


思わず、ふっ…と溢れた笑み。
けどその瞬間、締め付けられるように胸が苦しくなった。


何だって知りたい。
まだまだ知らないことを、もっと知りたい。

いろいろ話したい。
くだらないことも、愚痴も、何でもかも。

電話したい。
メールしたい。
会って話がしたい。


思ったんだよ、あの時。
クリスマスケーキの話をした時。

なら今年は、Aが望む通りの苺がいっぱいのホールケーキを買って、2人で一緒に食べたいって。

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