JIYONG -2-

存在 -Jiyong- ページ21

ジ…ヨン

恥ずかしそうに言う姿。
言いにくそうで、緊張してるのが伝わってくる。

呼んでくれた時、にんまりと…
口角がゆっくりと上がり、にやけて、抑えることができないほどだった。

ただ呼び方が変わっただけなんだけど、
ちょっと距離が近づいた気分。

思わず、目に見えない距離だけでなく、
目に見える距離までもが近づいた気分。

特別な存在。

俺を癒してくれる存在。

自分の部屋のベットだったり、
お気に入りのワインだったり、
何かあってもそこで寝たり、飲めば、
身体も心も回復する、
Aはまさにそんな存在。

つまらない愚痴も、世に対する不満も、
嬉しかったことも、楽しかったことも、
何でも話せて、１日をリセットしてくれる存在。

都合のいい女なんていう風には思ってないけど、
俺の全てを受け止めてくれる存在。

俺を満たしてくれる存在。


そう思っていた。



人間は、落ち着いて考えたらわかることでも、
時にそれを忘れ、感情が優先してしまうことがある。


よく、失ってから気づく、というけど、
それがある時は、あることが当たり前で、
いちいちそれに感謝をしないし、
することを忘れてしまう。


そして、もう一つ。


夢だったり、物だったり…人だったり。
それに対しての想いが大きく、深く、
強ければ強いほど、
プラスにも働くけど、もちろんマイナスにも働くということ。


浮かれていたのか、のぼせていたのか。

見ないようにしていたのか、
本当に気づいてなかったのか。


全てがそうであるように、
１秒１秒、時間は流れ、環境も変わり、
関係も変わり、人も変わり、想いも変わるのに。


多分俺は、あの時から…
ずっとナミソム島で、1人、
止まったままだったのかもしれない。


ジ…ヨン

名前を呼んでくれた時、
チリンッと鈴が鳴るような、
そんな可愛らしいAの声の響きがずっと頭に残ってる。


Aの、黒目がちな目が好きだった。
あの目に見られ、笑顔を向けられると、
それだけで…気分が良くなった。


なのに。


画面の中とはいえ、
今Aは、俺じゃなく、他の男を見ている。

こんなこと…されたこともない。

いや、して欲しいとも思ってなかったけど、
ここにも、初めて見るAがいた。


口から言葉が出ない。
出てこない代わりに、身体の中で感情が渦を巻く。


見てられない。
こんなの、俺の知ってるAじゃない。


吐き出せない身体の中で、
感情が渦巻きながらガラガラガラ…と。
崩れ落ちていった。

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