Untitled -3-

部屋 ページ17

(Jiyong side)
「どうぞ」

コトッとテーブルに置かれたコーヒー。
カップに手を添えると、
手の平がじわっと温かくなった。

この部屋に入るのは…本当にいつぶりか。
まだ一緒に暮らしてない、
付き合いはじめの頃に何度か来たけど、
その頃とはインテリアは変わっていて、
まるで初めて来るかのようで。

だけど雰囲気というか、空間というか、
それらは全てAを感じさせてくれていて、
さっきのタクシーの中とは比べ物にならないほど、心地良くて。

「お仕事は？」

「あ…今抜けてきてて…また戻らなきゃいけないんだけど…」

「そっか…」

コーヒーを飲むふりをして、
チラッと見たAの横顔。

やっと泣き止んだけど、
真っ赤になった目。

考えてみれば…会うたびにいつも泣かせてたよな。

ジウォンとのことを話せば、
またきっと泣かしてしまうんだろうけど…
話さないわけにはいかず、
チェジュ島で会った事や、
その後の事をAに説明した。


ジウォンの事を考えているのか、
一点を見つめたまま俺の話を聞き、
やっぱり目からは今までみたいに大粒の涙が溢れて。

そんなAを見ていたら、
こんな状況で自分の気持ちを言うべきか迷いが出てきた。

不謹慎というか、今言うべき言葉じゃない気がして。


掛ける言葉も見つからず、
触れることもできなくて、
どうすればいいのかわからないまま、
Aが泣き止み、落ち着くのをそばで見守るしかなかった。

……………
(A side)
ジヨンが話してくれたジウォンくんとのこと。
そんなことがあったなんて…

職場で見た今日までの笑顔。
チェジュ島に行く前に挨拶に来てくれた時。
今日誘った理由。
今日のジウォンくん。

笑顔の裏で、
こんなことを考えてくれてたなんて。

申し訳ない気持ちと、
ジウォンくんにそうさせてしまった不甲斐ない気持ちが混ざり合う。


けど。


『不安なことは口にして、素直に気持ちを話して向き合って』


そう言ってくれたジウォンくんの言葉を思い出した。


でも今まで散々自分の殻に閉じ籠り、
怖くて素直になれなかった私には、
それは簡単なことではなくて。


けど。


あれ？


ジヨンがラグの上に置いたスマホ。
今チラッと見えた赤いファー…みたいなもの。


「A？」

身体をずらし、少しジヨンに近づいて。

そしたら、ハッキリと見えた赤いファー。


何で同じことしてるの？

そう思ったら嬉しくなって、
嬉し涙とともに笑みが溢れた。

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