-0.TO.10-

【過去】後悔 -Jiyong- ページ13

ズルッ…ズルッと…
足を引きずるように歩いて、
さっきから周りの景色が歪んでるのは、
降ってきた小雨のせいか…
それとも、止まらない涙のせいか。

ずっとポケットの中で鳴っていた携帯。
鳴らなくなったのは、多分充電が切れたから。

行き場を失った俺。
ゆっくりと歩き出したけど、
今ここがどこなのか、地面ばかり見てるからさっぱりわからない。



歩き続けていたら、いつの間にか大通りに出た。
…と、一枚の白い花びらが地面に落ちていた。

しゃがみこみ、その花びらに触れた。

これは…

そのまま首を空に向けると……

「……っ！」

真っ暗な夜空。
そこに浮かび上がる白い花。
まっすぐ空に向かって咲いているその花は、
Aが1番好きだと言った木蓮の花。

その話をしてくれた時は、俺ら一緒にいたのに。

こうなったのは全て俺のせい。
Aのことなんか考えず、
自分のことばかり考えて、
周りのことさえ考えてなかった。

ただ本当にAがいないと無理で、
だから会いたくて。

全部俺のせいなのに、
俺がAの話を聞かなかったから悪いのに、
Aは全て自分のせいにして、
最後の最後まで俺を守ってくれて。


事務所を解雇
オーディションを辞退


ネットで見た文章。
事実なのか口にして確かめるのさえ怖かった卑怯な俺。

なのにAは俺にあんな温かい言葉をかけてくれて。

『夢はステージの真ん中で、笑顔でお客さんから大きな拍手を貰う事』

Aのその夢を奪ったのは俺。
数週間前、オーディションの一次審査に合格したとあんなに笑顔で喜んでいたのに。

俺の夢は…
あれも、これも、と、Aには全てを言いすぎて、
どんな小さな夢も話したから、もう何を話したのかさえ覚えてない。


俺も子供の頃から夢に向かって走ってきたから、
どれだけ自分の夢を叶えたいかわかる。

そしてそれを他人のせいで奪われたとしたら…

想像しただけで頭が真っ白になり、冷や汗が出てきた。

俺がいなかったら…
俺と出会わなかったら…
あの日、俺がトイレに行かなかったら…
モニターを見なかったら…
話しかけなかったら…
連絡先を聞かなかったら…
あの夜、公園で電話をかけなかったら…
Aの話を聞いていたら…


ありがとう…
本当に大好き…

笑顔とともにAの言葉が頭を回る。

俺と出会わなかったら…

そう思いながらグルグルと頭が回り、
Aの笑顔もだんだんと薄れ、消えていった。

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