結城の日記 １ ページ2
〜６年生 お楽しみ会〜
(４月後半)
「なにゲームする？」
「王様ゲームしようぜ！」
「えー、人狼ゲームがいいー」
みんなが、どんなゲームがいいか話してるのを脇目に、僕はソファーに腰かけた。
隣では、美夜ちゃんがロリポップのキャンディを舐めながら、スマホをいじっている。
その横顔も綺麗で、じっと眺めていても飽きなかった。
「…何？結城どしたの？」
スマホばかり見ているように見えたのに、気付かれたみたいで、美夜ちゃんは僕の方に目を移した。
いつも感情を見せない顔に、少し不思議そうな表情が浮かんでいる。
栗色の髪、碧の瞳。全部同じはずなのに、なんでこんなに差があるんだろう。
別に僕は、綺麗になりたいんじゃない。
でも…たまに思うんだ。
君と僕、代わってあげられたらなって。
綺麗なのは、可愛いのは、いいことかも知れない。
特に女の子にとって、すっごい重要なのかも知れないけど、美夜ちゃんにとって、良かったのかな？
だって小さい頃、可愛いのが原因で、怖い経験をしちゃったんだから。
そのときから、美夜ちゃんは変わったんだ。
誰にも何も相談しなくなった。
何があったのか聞いても、首を降るだけで、答えてくれない。
でも、美夜ちゃんを変えるぐらい、怖かったんだな、嫌だったんだな、ってことは、わかる。
思い出したくないかも知れないから無理には聞かないけど、せめて…弟の僕にぐらい、言ってくれてもいいのになって思うんだ。
「ねぇ、ねぇ！結城！」
苛立ったような美夜ちゃんの声に、現実に引き戻される。
「あ、ごめん…な、何？」
呆れたように、はぁっと息をついて、美夜ちゃんはスマホの方に向き直った。
「何ってこっちのセリフ…なんでこっち見てたの？」
チッ、っと舌打ちして見せるけど、その音をわざと小さくしてくれてるのを僕は知ってる。
「皆と居るときは、スマホ辞めなよ。」
そう言うと、僕は美夜ちゃんの手の平からスマホを抜き取って、電源を切った。
「…親かよ。弟のくせに。」
「身長で見たら、僕のほうが兄だけどね」
ちらりと目を向けると、美夜ちゃんは黙って僕を睨んでいた。
あわてて目を逸らした頃には、脛を思いっきり蹴られて、僕は痛みに呻いていた。
「…なんか言った？」
「…何でも、ない、です…」
こんなやり取りも、結構楽しかったりするんだ。
僕にとっては、ね。
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作者名：月夏 | 作成日時：2018年7月9日 17時
