三十話 ページ33
家に戻った瞬間、私を縛っていた何かから解放された。
扉にもたれ掛かった儘、ずるずるとずり落ちる。
─────────又、やってしまった。
男は死んではいないだろう。
でも、殺しに近い事をした。
先刻まで私を縛っていたモノは一体何なのか。
何で私は躊躇なくあの男にあんなことを出来たのか。
考えなければいけないことは山ほどあるのに、頭が上手く回らない。
もう嫌だ。
あの男にも、大切な人はいたかもしれない。
恋人や妻はいなさそうだったが、友人はいたかもしれない。
あの男の両親も、若しかしたら生きているかもしれないのに。
もう、誰かの大切な人は殺したくない。
────────でも。
昔ポートマフィアを抜ける時、紅葉の姐さんに云われた言葉が蘇る。
〔人は、生きていく為には手段を選んで居られない時もあるのじゃよ。誰かの幸せの為に、自分を殺す必要等無い。人間誰だって、自分が一番大事なのじゃから。それが普通なのじゃから。〕
手段を、選んでいられない。
私は、如何やって生きていけばいいんだろう。
───────我々と一緒に来ないかい?
脳裏によぎったのは、林太郎さんの言葉。
その時、携帯に着信があった。
『………………タイミング良すぎでしょ。』
林太郎さんからだ。
『もしもし。』
【もしもし、Aくん? 体の調子は如何かね?】
『お陰様で、良好です。』
体だけなら。
【そうか、良かったよ。中原くんから話は聞いている。矢張り、この時が来てしまった、と思っていたがね………】
『…………はあ。』
林太郎さんの言い回しに少しイラッとする。
恐らく、林太郎さんは私にポートマフィアに入って欲しいんだ。
「人殺しちゃったんだし、もういっそポートマフィア入っちゃえば?」とでも云いたいのだろう。
『林太郎さん。他に何か用事でもお有りですか?』
【うん、そうだね………無い訳では無いんだ。君も分かっていると思っていたけど………】
『ポートマフィアに入れ、と?』
【流石だ。】
電話の向こうで、林太郎さんが笑っているのが分かる。
あの胡散臭い、貼り付けたような笑みで。
【一つの手だよ。ポートマフィアに入れば、人を殺しても「仕事だから」と理由を付けてしまえる。】
『人を殺して、私にデメリットが無くなったこのタイミングを狙ったんですね。』
【否定はしないよ。】
善い返事を待ってる、と云って電話は切れた。
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桃茶(プロフ) - 詞音さん» ありがとうございます!夜中の3時…!?ちゃんと睡眠も取ってくださいね!w (2018年4月9日 7時) (レス) id: d281eb019e (このIDを非表示/違反報告)
詞音 - 面白かったです!ついつい夜中の3時後まで読んでしまいましたw 他のも見ときます! お疲れ様でした。(´∀`) (2018年4月9日 3時) (レス) id: 6b5092fe94 (このIDを非表示/違反報告)
桃茶(プロフ) - 御免なさい、三十二話とあとがきが何故か消されていて……形的にはこれで終わりです!閲覧ありがとうございました! (2018年4月3日 13時) (レス) id: d281eb019e (このIDを非表示/違反報告)
悠爽 - 終わるんですか!?とても良い作品だったのに!でも作者さんお疲れ様でした。とても素敵な作品で面白かったです!!! (2018年4月3日 13時) (レス) id: e139e0903a (このIDを非表示/違反報告)
涼(プロフ) - え・・・終わっちゃうの!?・・・・・おもしろかったです!! (2018年4月3日 12時) (レス) id: da69d52ea0 (このIDを非表示/違反報告)
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