伍漆 死神の城 ページ10
真っ黒な船。といっても水上ではなく空中を飛ぶ飛行船に入ると中までも薄暗い。それが死神の好みなんだと。都合のいいことにこの船は外からは見えないようになっているらしい。そしてここが私の実家。
「……あっれA!!元に戻ったんだね
びっくりー久しぶりだーー!獏もおかえり」
「……
「んー地球の江戸に死神って呼ばれてるのがいるって聞いてきたんだ。けど、かなりの見当違いだったんだよ。そしたら命令が下っちゃってさー」
どんな命令かなんて聞くまでもない。真選組と私の見張りだろう。
「久しぶりだし、みんなに挨拶すれば?」
「……ごめん今日はもう寝る」
憎らしくもまだ残っていた自室の扉を開ければ、私がかつて唯一信頼できた斧がまだあった。
他にはベッドくらいしかものはなく、そのベッドに横になって総悟さんからもらったネックレスを見つめるとまだ涙が溢れるものだから、きっとまだ私の中で春村の魂は残っているんだと思う。
それが誰なのかはもちろん全く分からないが。
雨に濡れてびしょ濡れだろうがなんだろうが関係ない。死神は風邪など引かないから。
ここは嫌いだ。昔を思い出してしまうから。
『……嫌だ!』
周りでは当たり前に行われているその行為を私は恐れ嫌った。それを素質のない子というらしい。
誰かの命を奪う為に生まれてきた自分が憎くて憎くて、死んでしまえたらどんなに楽だろう。
何度も何度もそう考えていた。
でもそんなことは許してもらえなくて、与えられた命令をこなすうちに笑いも泣きもしなくなった。
そうすれば褒めてもらえたから。
他の種族に何度も何度も憧れた。
誰かを愛して、愛されて、何かを守って。
きっとそれが宇宙共通の普通の形なんだと。私の世界とは大きくかけ離れている。
この狭い部屋の小さな窓から眺めた景色は私に叶わない夢だけ見させた。
「……私がもし死神じゃなかったのなら、そんな普通の毎日だったかな」
「僕が見せてあげようか?…なーんて」
ガチャッと開いた扉に驚き肩が跳ねると驚きすぎと笑われた。
「お腹空いたでしょ?はい、おにぎり。あとそのままじゃあれだからシャワー浴びてきなよ」
「おにぎり………下手くそ」
「味には変わりなし!!」
八十はいつも笑ってる。でも、知っている。
彼の過去を私は。
「ありがとうね」
その笑顔が偽りだとしてもどこか救われたんだ。
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時