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カフェテリア、いつもの時間帯。
突き刺すような日差しを避けて立ち寄るそこには、いつも窓辺に彼女がいる。
「ボンジョルノ」
「フーゴ!ボンジョルノ!」
ぱぁっと顔を輝かせニコニコと笑う彼女に僕も頬を綻ばす。
彼女の名はA・ヒュウガ。
歳は僕と同じで休日に必ず会うという暗黙の了解がある。
彼女は必ずスケッチか学校の宿題、そして宗教絡みの本を読んでいた。
今日はギリシャ神話の本を読んでいた。
今日も彼女は爪の間に洗いきれなかった色とりどりな絵の具を挟んでいた。
「で、あの絵はどうです?進捗の方は」
「とても進みました!完成まであと少しって感じです!」
「それは楽しみだ」
彼女はレモンスカッシュとオレンジタルトを、僕はエスプレッソと苺ケーキを注文した。
彼女の爪の間の絵の具は今日は鮮やかな檸檬色だ。
「締切に間に合いそうでよかった」
「締切...?どこかに出品するのですか?」
「ホテルからの注文の品なの。
お題はギリシャ神話のクピドとプシュケ」
「そう、ですか」
と言うことは完成した絵を見る事は叶わないのか。
些か残念な気持ちでいたら彼女があっと閃いたと言いたげに顔を上げた。
「私のアトリエに来ますか?」
「はい?」
「もうほとんど完成なので、あっもし良ければですが...」
「い、いえ!是非見せて下さい」
若干食い気味にそういえば少し驚いたように瞬きを繰り返した後、ふわっと夕焼けのような暖かな笑みを浮かべた。
その笑みにまた胸が大きく跳ねる。
いつもそうだ、Aさんの柔らかな笑にいつも心臓がぎゅっと痛む。
何故かは分からない。けど不快ではなかった。
運ばれてきたケーキを各々噛み締め、宗教絵画について雑談を交わす。
そして僕が2人分会計を済ませ出たところで彼女がお礼にとワゴン販売のジェラートを奢ってくれるのもいつもの流れだった。
ふと近所の女子高生達が視界に映った。
制服の人を見る度に背筋がヒヤリとする。
彼女だって高校生だ。
そして僕はギャングの下っ端。
せめてバレるまで、と今日も胸を抑えAさんとの時を過ごす。
いつもはここでお別れか本屋へ行くかなのに、今日は違う。
少し胸を弾ませて彼女の横に並び、石畳の道を二人で歩いた。
何故だかAさんと少しでも共にいられることが嬉しく思えた。
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鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - さくらんぼ&チェリーさん» そんなッ!あなたがッ!!大好きですッ!!!(告白)ありがとうございます!めちゃくちゃ嬉しいです! (2019年8月25日 16時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ&チェリー - もう!本当に!!どうしてこんなに素敵なお話が書けるんですか!?好きです!(テンション) (2019年8月25日 9時) (レス) id: ced51d468f (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - さくらんぼさん» 読んでいただきありがとうございます!是非ごゆっくりしていってください! (2019年8月22日 20時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - 暇を持て余した夢女さん» とっても素敵な表現ありがとうございます...!こちらこそ幸せです!また機会がございましたらその時はよろしくお願いします! (2019年8月22日 20時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ - 次から次へと呼んでしまいます。気づいたら1時間ぐらい経ってました。 (2019年8月22日 15時) (レス) id: 5e7806b95a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年8月4日 19時