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鮮血 ページ2

中にいた”それ”が、大義そうにゆっくりと顔を上げた。


そして、私を正面から見据える。


舐め回すように見るその仕草に、虫酸が走りそうだった。


”それ”が自身の手を舐める。


月の光に照らされ、口元で何かがぎらりと鈍い光を放った。


牙だ。


鬼が、千花のいる部屋にいた。


千花は血を流して倒れている。


うめき声をあげない。身じろぎもしない。


もう死んでいるのか?そんなまさか。


手に汗が滲む。


動けなくなっている私を見て、その鬼がにやりと笑った。


「人の餌場を荒らしに来るたぁ、どういう了見だ?」


”餌場”


その言い方を聞き、私の中で何かが急速に冷えていくのを感じた。


この鬼は、何を言っているんだ?


しかしよくよく考えてみれば、馬鹿らしい話である。


私だって鬼だ。誰かの大事な人を喰らって腹を満たす鬼なのだ。


だから、私は彼のことについてとやかく言うことができない。私も同類なのだから。


それでも、私と同じことをしたはずの鬼に対して憎悪を抱いた私はなんと矛盾した存在なのだろう。


「そんなに喰いてぇなら、手の一本ぐれぇくれてやる」


黙り込んだ私を見て、何を勘違いしたのか鬼が何かを投げてよこした。


それを見て、ひゅっと息を吸い込む。


腕だ。


間違いない、千花の腕だ。


どうやらそれは身体から切り離されたばかりらしい。


腕の切断面から鮮血がどくどくと溢れ出している。


そしてそれが、ほとんど汚れのない綺麗な畳を朱に染めてゆくのだ。


それを見た途端、何も分からなくなった。


ただ、目の前の鬼が憎かった。


意識しないままに口から言葉が漏れる。


A『・・・血鬼術』


鬼が驚いたような表情をするのが見えたが構わず続ける。


A『・・・蔓枷(つるかせ)


口にした直後、手から糸が数本放たれた。


もう一度言うが、私は何も意識してはいなかった。


それはまるで、人が意識せずとも呼吸をしているような、そんな必然的な感覚に似ていた。


糸が驚き固まっている鬼を捕らえ、きつく絡みつく。


糸は細い。


そのため、一部は皮膚を裂き肉に食い込んでしまったようだ。


苦しそうなうめき声を上げる鬼を、糸で拘束したまま外へ放り出す。


もう少しすれば夜明けだ。あの鬼は日に焼かれて死ぬ。


何か喚いている鬼を放置したまま、私は震える足で千花に近寄った。

朱→←匂い



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緋月 - たまきさん» うまかった!(^^) (2023年2月21日 13時) (レス) id: eec4e6d19c (このIDを非表示/違反報告)
たまき(プロフ) - 緋月さん» あねwwならよかった (2023年2月21日 12時) (レス) id: 10bfc6b38c (このIDを非表示/違反報告)
緋月 - たまきさん» まぁ、2つ食べれたからよかったんだけどねw (2023年2月21日 8時) (レス) id: eec4e6d19c (このIDを非表示/違反報告)
たまき(プロフ) - 緋月さん» 忘れるな!?当日に忘れるな!!w (2023年2月21日 7時) (レス) id: 10bfc6b38c (このIDを非表示/違反報告)
緋月 - たまきさん» ありがとう!🐜ケーキは今朝食べた。昨日は忘れてたらしい (2023年2月20日 15時) (レス) id: eec4e6d19c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:たまき | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2022年12月31日 18時

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