第二夜 『君をいらないと言える日まで』 ページ9
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主人公になれない恋もある。
どこかで書いた小説のフレーズが、今も耳の裏にこびりついている。
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初めて出会ったのは、オフィスのエレベーター前。
お昼休みに入って、ご飯ご飯とルンルン気分で財布を片手にヒールを鳴らしながら角を曲がろうとした瞬間
ゴン！と鈍い音がしたかと思ったら、次にバサバサっという軽い音。
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何事かと思って、慌てて角を曲がってエレベーター前を見ると床に見事に散乱している(恐らく)資料たち。
その資料たちのど真ん中で、しゃがみこんで額に手を当てて「痛……」と歯を食いしばっている男の人。
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状況はなんとなく、読める。
恐らく時間がないかなんかで、慌てて閉まりかけていたエレベーターに無理やり乗ろうとしたはいいものの
間に合わず、閉まったエレベーターにゴン！と額をぶつけてしまったーーーー…という感じか。
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電車にギリギリ乗れなかった、あの感じとかなり酷似している。
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『あの…大丈夫ですか…？』
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恐る恐る話しかけながら、私もしゃがみこんで散乱している資料たちを拾い集める。
その声に反応して、男の人は額に当てていた手をパッと外して私を見る。
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たぶん、このときだ。
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くりくりした茶色い瞳と目が合う。
それから困ったように微笑んで。
目尻をクシャクシャとして、その人は。
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『すみません、大丈夫です！』
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と全然大丈夫じゃなさそうな、真っ赤になったおでこを見せて笑った。
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『あ、派遣の方だったんですね』
『そうです、今日からで』
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見たことがない顔。そんでもってかなりイケメン。人懐っこい笑顔は初対面の私でも胸を思わず掴まれた。
そうだ。たぶん、あのときから私は好きだった。
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真っ赤になってしまっていたおでこを冷やしましょう、と「大丈夫ですって」と断ってきた手を無理やり取って給湯室へ。
冷やしたタオルを渡して、おでこにあてる。
彼はその冷たさに一瞬、怯むように目を閉じたけどすぐに開いて。くりくりした瞳で
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『助けて頂いてありがとうございます。ご挨拶遅れました、今日から派遣で来ました、相葉雅紀と言います』
とにこやかに微笑んだ。
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