【06】 ページ23
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数年ぶりに会ったチヨさんは、さらに腰を低く曲げていたけれど優しく微笑む目元は何一つ変わっていなかった。
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チヨ「あんたが来なくてなってからねぇ、Aちゃん、急に元気なくなっちゃって」
智「…」
チヨ「ここ最近はずっと動かないよ。最近台風も来ちゃったしねぇ」
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変わらない、長閑な風景。
高い建物がなく、周りは緑。
その緑の中に、いつも秋色のカーディガンを羽織って俺の手を取ってくれたAちゃんが今は、いない。
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相変わらずコンクリ設備されていない、足元が危うい道をチヨさんと二人で並んで歩く。
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チヨ「もう気づいてるのかい？」
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ふわり。彼女のにおいが鼻をくすぐった。
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智「…去年ぐらいに、なんとなく。もしかしたらとは思ってました」
チヨ「そうかいそうかい。Aちゃんもやっと楽になれるねぇ」
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見慣れた、チヨさんのお家。
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チヨ「じゃあ私は家で笑点見るから。ゆっくりしていきんさい」
智「ありがとうございます」
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ふふふ、と笑ってガラガラと引き戸を開けて古民家に入っていくチヨさん。
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ーーーー…まさか、とは思った。
そんな嘘みたいな話があるか？
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ただ、だから彼女が俺の告白を断ったと思えば辻褄があう。
そしてそれに気づくのが俺は遅すぎた。
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智「ーーーー…Aちゃん、久しぶり」
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そっ…と幹を撫でる。
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サァァァァという秋の冷たい風が吹く。
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ひょ、と幹の後ろから長い髪の毛。
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「……おおの、さん？」
智「Aちゃん」
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ーーーー…ああ、やはり。
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君は、歳をとらないんだね。
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智「台風は大丈夫だった？」
「…バレてるの？」
智「もうわかってるよ」
「……そっか。台風は大丈夫。左手が痛いぐらい」
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上を見上げると、なるほど左手を負傷している。
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智「もう寿命だと聞いた」
「もうダメね。昔みたいに動けない」
智「顔が白い。喋ってて平気？」
「大丈夫。最後だから、これがきっと」
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柔らかくそう、彼女は微笑んだ。
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