【05】 ページ14
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俺、結婚するんです。
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Aさんには一番お世話になったから、一番に言いたくて。
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真正面から思わぬ発砲をされた私は、見事に心臓を抉り取られた。
そうか。結婚。
頭の中で理解した瞬間、朝、買ってきたコーヒーは重力に従って垂れていった。その様子をただ眺めることしかできなかった。
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そうだ。いつだって、私は眺めることしかできなかった。
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話を聞くところによると、知り合いの会社から正社員にならないかと言う話を持ちかけられ
ちょうど契約が満了する時期。ずっと渋っていた答えをようやく出し
ちょくちょく知り合いの会社に出入りし、その度に顔を合わせていた女の子と付き合い結婚を決めたという。
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おめでとう、よかったね。
気持ちとはウラハラすぎる言葉を顔に貼り付けて
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俺、実はAさんのこと好きだったんですよ。
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最後の最後まで、漫画のような終わり方を。
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「…私、永原と付き合う。」
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他の男を忘れるために、他の男を使う。ああ、なんて滑稽な。
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＊「それじゃ、相葉の結婚祝いと！門出にカンパーイ！」
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本日の主役、というタスキをかけてる相葉くんが変わらない笑顔を振りまいて照れ顔。
彼を失った毎日はモノトーンで、あまりにも早く過ぎていった。
あっという間に別れの日。元から好かれていた相葉くんは、まあまあの人数に祝われて去って行った。
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飲み会には女子社員たちが本気の大泣きをして、「あいばさ〜ん、今からでもいいです、私と結婚しましょう〜」なんて。
それすらも言えなかった私は、彼女たちより格下。
ただ端っこで、ちびちびとお酒を事務的に流し込むだけ。
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あぁ、もういっそのこと。
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「…ビールの泡みたいに消えちゃえばいいのに」
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ーーーー…ふわふわ、ふわふわ。
ふわふわ、していた。
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大好きな匂い。茶色いふわふわした髪の毛。
首筋にぐりぐりと鼻を押しつけると、「Aさん、くすぐったいです」と笑われる。
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ぼんやりとした意識の中、薄眼を開ける。
ネオンが胸の痛みを押し付けた。
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