#2 一等星のカノジョ【ars K.N】 (ページ3)

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29.誰よりも輝く存在ページ3

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カズたちの部屋に入るとそこは薄暗く、これはおそらく誰も居ないだろうと引き戸を閉めかけた時、

微かな煙草の匂いが私の手を止めた。

「……カズ？いるの？」

ゆっくりとバルコニーまで足を進めると、

柵に身体を委ね、唇の間に煙草を挟み、夜空を見上げながら紫煙を燻らすカズが居た。

「カズ」
「………ん、」

人差し指と親指で煙草を口から離して、携帯用灰皿に押し付ける。

その間に私はカズの隣に移動して夜空を見上げた。

「てっきり喫煙室に行ったのかと思った。…ていうか、ここで吸っていいの？」
「喫煙可のはず。本当は一本吸ったら戻ろうと思ってたけど……すごく綺麗だったから」

カズもまた、夜空を見上げて

そこに広がるのは無数の星
その一つ一つが力強く輝いている。

童謡きらきらぼしの「きらきら光る」というのはまさにこの事なのか。目を奪われっぱなしだ。

「本当…綺麗だね」
「うん。中でもさ…見て？あの一番光ってる星」
「一番？」

そう言われて見ると、確かにどの星よりも強い光を放っている星があった。

一度見つけてしまうと、
それにしか目がいかない程の輝きだ。

「俺の中で前の彼女はあの星みたいな存在だったんだよ。誰よりも強く輝いてて、目が離せなくて……すげぇ惚れてた」
「別れたこと…後悔してるの？」
「いや？俺があいつのそばに居たら、あいつはダメになる。そう分かってたから。俺ナシでも生きれるようにならなきゃ…ダメなんだよ」
「心を鬼にして振った…って事だね」

この間カフェでカズから元カノの話を聞いてた時は平気でいられたのに、今は違う。

少し複雑だ。
好きな人の元カノ話がこんなに胸に刺さるなんて…

しかも、嫌いになって別れた訳じゃないらしい。
これはなかなか…辛いかもしれない。

「まぁ、心を鬼にして振った代償としてそこに大きな穴が開いちゃったんだけどね」
「そんなの当然…寂しくなるよ」
「うん。そう。寂しかった。けどね？あの日お前と出会えたおかげで結構毎日、楽しく過ごせてる自分がいる。だから……ありがとね」
「そんな！私は全然何も…してない…し」
「ふふ…顔上げろよ、俺今イイ事言ってんだから」

柔らかい笑い声と共に
すっと、カズの指先が私の顎に添えられた。