鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ47)

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『叔母サン、私手伝いますよ』
「え？」
『店』

そう言えば、叔母サンは大喜びでエプロンを出してきた。
コードを脱いで渡された黒いシックなエプロンを着て、お盆を持つ。

『優衣、代わるよ』
「お姉ちゃん？仕事は？」
『今日休みなんだよ。優衣、接客とかあんま好きじゃないでしょ』
「ありがとう、」

優衣はホッとしたように笑って、キッチンへと歩いていく。それを見送れば、お客さんから声が掛かった。

『お待たせしました。ご注文は？』
「アールグレイを二つ」
『かしこまりました。少々お待ちください』

アールグレイを頼んだお客さんは、若い女性二人組。カッコつけた方がウケがいいかな、なんて思ってワザと声を低めにすれば、席を離れた時背後から黄色い声が聞こえた。

『アールグレイ二つだそうです』
「Aちゃん…随分様になってるじゃない…かっこいいわ…」
『はは、ありがとうございます』

確かに今日はカッコイイと言われる出で立ちかもしれない。仕事では無いのでいつもの服装ではなく、全体的に黒で纏めた服装だ。
アクセもシルバーのシンプルな物ばかりで、髪はワックスで緩いオールバックに。メイクも全体的に薄めで、足元は7センチヒールの編み上げブーツ。
何故こんな服装なのかと問われれば、気分だったから。ただそれだけだ。

『お待たせ致しました』
『美しいお嬢様方にサービスです』
『綺麗なワンピースですね、お似合いです』

…というわけで。
叔母サンがイケメン路線で行って！と言うので、歯の浮くような言葉と共に仕事を続ける。
なんだ？ここはホストクラブか何かか？

「お名前なんて言うんですかぁ？」
『あー…鶴、です』
「つるさん！オススメってあります？」
『ダージリンのファーストフラッシュですね』
「じゃあそれでぇ」

本名を言うのもなんだか嫌だったので、源氏名まで作ってしまった。
いよいよホストだな。客のことお姫様とか言った方がいいか？

客も男女半々だったのが、女性の割合が増えてきた。口伝いにでも広がったらしい。

繁盛具合は昨日まで閉まっていたとは思えない程だ。叔母サンも満足気に頷いている。
…マ、休業中もしょっちゅう入り浸っていたのだ。この程度じゃ返しきれないほどの恩はあるし。

「ご馳走様でした、また来まぁす」
『またのお越しを、』

それに、きゃあきゃあ言われるのもなかなか楽しい。カッコつけるのも板について来た。

ーカラン

『いらっしゃいま、せ…』

開いたドアに振り向くと。