鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ45)

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顔を上げて見れば、ガラス戸に映るモンスター。シマウマのようなソレは、大森サンの後を追うようにして廊下の奥へと消える。

「…モンスター」
『大森サン…狙われて…』

次の瞬間、モンスターの気配は掻き消えた。あの感じ、雑魚ではない。沢山の人間を食った、かなり強いモンスターだ。

「おーい、」
「『！』」

二人してガラス戸を睨んでいれば、大森サンの声がかかった。
意識が引き戻される。

『すみません、今行きます！真司、』
「あっ、Aちゃん！」
『？何、』

虫かごに蓋をして、大森サンの方へ足を踏み出せば、後ろからかかった真司の声。

「大丈夫だから」
『…？』
「俺が、守るから。大森さんのことも…Aちゃんのことも」

彼はどうやら、私がミラーモンスターに怯えているとでも思ったらしい。
真司の方がミラーモンスターの存在を知ったのは後だし、怖いだろうに。……

『…大丈夫。別に今更、モンスターなんて怖くないよ』
「…そっ、か。なら、いいんだけど」

彼は心底安心したように言った。

『君はほんとうにさ…』
「何？」
『…いや、』

つくづく優しくて、つくづくライダーに向いていない。
誰かの幸せを、心から願える人間。見ず知らずの人間の安心が、自らの安心になる人間。

『…大森サンを待たせちゃ悪い。急ごう、真司』
「アッ、忘れてた！」

守ると言った瞬間見せた、真剣で、覚悟を決めたような顔。
なんだか、堪らなく苦しくなった。

『(似合わない)』

君はさ、金色のザリガニ相手に、ヘラヘラ笑ってるのがお似合いだよ、真司。