鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ42)

今日:5 hit、昨日:14 hit、合計:13,863 hit

38 ページ42

『おはようございます』
「おはよう」

いつも通りOREジャーナルへ足を運ぶと、偶然令子サンと出社のタイミングが被った。

『どうぞ』
「ありがとう」

ドアを開けて微笑めば、令子サンは慣れたようにドアを潜る。それを追って、私もいつもの仕事場に足を踏み入れた。

『…は？』

そうして目に入ってきた光景に、私と令子サンは揃って手に持った荷物を落とすこととなる。

「痛い痛い痛い！」
「てめぇ〜真司ィ！」
「アマリリス…」

部屋中にぶちまけられた白。
痛みに悶える真司と、彼にヘッドロックをかける編集長。
真っ白になったデスクトップパソコンのアマリリスに、嘆きながら頬を寄せる島田サン。

「火事の夢を見たと！なんでこんなことに何だ、あァン？！」
「いっだ…ア"！」

編集長が叫んで、更に強く真司の頭を締め上げると、真司が苦痛の声を漏らす。そこから目を逸らして、もう一度辺りを見渡した。
部屋中にぶちまけられた白は粉っぽく、部屋の隅には消火器が落ちている。
編集長の言葉を鑑みるに…

『(真司が火事の夢を見て、消火器を使った…と)』

馬鹿だ馬鹿だと言われていたが、真逆ここまでとは思わなかった。
そんな、漫画みたいなことがあるなんて。

隣に立つ令子サンは、信じられないと額を抑える。そりゃそうだ。どこの世界に会社で寝泊まりし、挙句寝惚けて消火器を撒き散らし仕事を増やす馬鹿がいる？
この世界だよふざけんな。

『めんどくせー…』

まずやるべきは掃除だが…消火剤の後始末はめちゃくちゃ大変だと記憶している。昔、火事が多いとかで記事にした知識しか無いけれど。

確か、掃除機で吸えば粒子が細すぎて掃除機が壊れる。かといって雑巾で吹けば水で粉が固まって取れなくなる。
つまり地道にホウキやらで片付けるしかないのだ。本当に大変。

ーピコン、ピコン、

未だ編集長に技を掛けられ続けている真司を横目に掃除用具を取り出せば、島田サンのパソコン…真っ白になったアマリリスから電子音が聞こえた。
メールが届いたようだ。

「編集長！変なメールが届いてます」

島田サンが立ち上がって、編集長に言った。その顔はアマリリスにくっついていたせいで、半分が白くなっている。

「あー？！」

編集長は反応したものの、メールを見る余裕は無いようだった。真司の粛正に忙しいらしい。真司は痛みにぎゃあぎゃあ騒いで、必至に編集長から逃れようとしている。

「今忙しいんだよ！」

編集長はそう言って、勢いを付けて…

ードォンッ！