鶴は幸せを運ぶのか Ⅰ (ページ22)

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「A、優衣。もし俺が居なくなっても心配するな。俺はいつでもお前たちを守るためだけに生きている」
『…兄さん、何処に行くの』
「……A。優衣を、頼んだぞ」

その問いかけに答えがなかったから、ああ、居なくなるんだなと思った。
辛かったけど、前々から兄さんは何かを隠しているようだったから、衝撃や悲しみよりも、腑に落ちる感覚が強かった。

『…任せてよ。お姉ちゃんだもん、私』

不安げに私の服の袖を握る優衣を、守り抜くと約束した。兄さんは嬉しそうに笑った。
私達三人は、最後に思い切り抱き合って、愛してると伝えて別れた。兄さんは一度も振り向かずに、花鶏を出ていった。

それから兄さんは、やっぱり姿を消した。私たちの前からいなくなった。連絡もつかなくなった。
次に会えたのはそれから一ヶ月後の夜で、何も分からないままライダーバトルについて告げられたのを覚えている。

自分が終着点であること。
平等であれ、ということ。

ライダーバトルはその日から動き出した。モンスターが現れて、ライダーが現れた。

蓮と出会って、殺し合いが始まったのだと知った。
殺し合いの果てに何があるのかを知った。

どこかで一度でも兄さんを引き止めていたなら、この終わりのない戦いは起きなかったのだろうか。
……いや、きっと、兄さんのあの瞳を見た瞬間、私は止めることなんて出来なくなるのだろう。何度繰り返したところで、殺し合いを知っていたところで、殺し合いの果てを知っていたところで……。

「お姉ちゃん、コレ、どこで買ったの？」
『＿＿え？…あぁ、大通りに新しく出来たお店あるでしょ、そこで』
「美味しい〜」
「俺も行ってみようかな…！」
『買えんの？真司』
「わっ、分かんない、けど…」

戦いの果てにあるモノの為、それぞれが抱える願いの為、ライダー同士が殺し合う。
目の前に居る真司も、蓮も、ライダーで。優衣や私も…ライダーバトルを回す歯車なのだろう。

考えたところで正解は見当たらず、一度目を瞑って、二人に微笑む。

日が落ちて暗くなるまで、私達は束の間の幸せを楽しんだ。