【歌い手】君に幸福を、僕に愛を。 (ページ9)

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翌朝、luzくんに手を引かれるようにして一階へ向かう。
9時ぐらいだし、朝って言うのかは分からないけど。

「ねぇ、luzくん。昨日話してた金髪の人って誰？」
「ん？あぁ、センラくん。折原千歌って言うねん。苗字と名前をとってセンラ。Aの家のとこの執事さん」

だだっ広い廊下を歩く途中でluzくんに尋ねると立ち止まり、壁に凭れかかった。
センラさん、静かに復唱する。
luzくんがそう呼んでるってことは多分私もそう呼んでるはず。
執事だって言うのならタメ口の方がいいかもしれない。
脳内で整理して、luzくんに向き合う。

「ありがと」
「いーえ。記憶喪失気味？センラくんの名前分かんないって」

しまった。頭を抱える。
いや、ここはluzくんが掲示した事故のショックで記憶喪失をネタにしよう。さすがに医者とかは知り合いにいないでしょ。他のことくらいは頑張って察するし。

「うん、実はちょっと……ごめんね、言わなくて」

眉を下げて、手を合わせて謝る。
luzくんはへぇ、と呟いてふわりと微笑んだ。

「怖かったやろ？ゆっくり思い出してこーな」
「うん、ありがと」

優しい声音と、頬に触れる手が騙していることへの罪悪感に繋がる。
ほんとはトリップしてて、みんなの事なんて知らないと言えたらどれほど楽な事なんだろうか。

嗚呼、目を細めて、静かに微笑んだluzくんの優しさに溺れてしまいそうだ。