後日談＿�� ページ48
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でもきっとそれは棘の自己満足に過ぎなくて。
縛り上げて閉じ込めたら、彼女の可愛い笑顔は見られなくなる。大事な彼女を恐怖のどん底に落としてしまうくらいなら、笑顔も泣き顔も、その全てをずっと傍で見ていたいと思った。
｢……………………A｣
｢！｣
ぽつりと耳元で聞こえた小さな声に、Aの肩が跳ねた。棘がAの名前を呼ぶのは、寂しくて不安で仕方ない時か、Aが可愛くてどうしようもない時。きっと今は前者だろう。……いや、後者でもあるかもしれない。
不安そうに揺れた声でA、Aと何度も呼ぶ棘のさらさらの髪を撫で、Aは彼にぴたりと身を寄せた。怖かったのも、寂しかったのも泣きたかったのも、自分だけではなかったのだ。
｢大丈夫。もうどこも行かへんよ｣
捨てられた子犬みたく怯えた棘を、優しい声をかけながらぎゅうっと抱きしめた。もしあの場でどうすることもできず鶴瓶の言われるがままだったら……と考えるだけで寒気がする。今こうして大好きな人の温もりに触れていることが嬉しくて、Aは目の奥からじわっと熱が込み上げてくるのを感じた。
｢……………す、き｣
宝石なんかよりずっとずっと綺麗なAの瞳から溢れる涙を一粒残らず拭い、小さな額に唇で触れる。
その度に名前を呼んで、好きだと言って。もうどこへも行かない、お互いから離れないと約束し合う。
繋ぎ止めておく鎖は必要ない。小指どうしを結ぶ赤い糸が、どんな時も2人を正しい方へと導いてくれるから。
｢…………あっ、こら｣
｢すじこ｣
どさくさに紛れて鎖骨に跡を増やしてくる棘をぺしっと軽く叩き、満更でもなさそうに｢もー｣と唸る。
それで満足したのか、Aを腕の中に閉じ込めてベッドに横になる棘。その優しい温度に包まれ、Aは静かに目を閉じた。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年2月26日 12時
