夜明けのいばら道�� ページ42
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棘がああなったのはAの所為。Aが飛んでくる布に気づいて避けていれば、棘があんな目に遭ってまで庇うことなんてなかった。
｢あと君が鈍臭くて良かったよ蕨美ちゃん。バカップルが。君らがバカで本当に良かった｣
棘は普段から普通の言葉を話せない。話したら不用意に人を呪ってしまうから。そのために声を封じ、言葉を絞って生きている。そんな棘は、大切な彼女に降りかかる危険すら警告することはできない。だから、迷わず彼女と催涙剤の間に飛び込んだのだ。誰よりも優しい棘だから、Aのために痛い思いをするなら構わないと、身を呈して盾になった。
(………………許せん)
そんな優しさを踏みにじり、あまつさえ『バカ』などと宣う始末。その怒りが沸き起こり、Aの心を埋めつくしていく。
そして、どうやらそれは野薔薇も同じらしかった。
呪言師である鶴瓶の調査を棘が任されたのは、何より彼らの相性の問題だ。棘なら難なく敵を倒して任務を終えられるから。それなのに彼の手を煩わせ、危険だという忠告すら無視し、その忠告に耳を傾けようとしたAをも巻き込んだ。己の迂闊さに怒りが吹き出していく。
｢おっと、俺に手は挙げないほうがいいよ。君らの術式はもう教えて貰ったしね。……芻霊呪法に陰陽術だっけ？金槌も式神も俺が持ってるしやめなよ。ね？俺を傷つけることだけはしない方が…………｣
｢おい、オッサン｣
｢！｣
鶴瓶の声を遮るように、低い声が地を這う。
その声は野薔薇のものでも棘のものでもない。
───────Aだ。
｢…………………………言葉には気ィつけろ｣
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年2月26日 12時
