夜明けのいばら道�� ページ37
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震え混じりに吐き捨てられたその言葉に、｢ご明答〜。凄いね蕨美ちゃん｣と鶴瓶が軽快に笑い飛ばす。
そして咄嗟に野薔薇の脳裏に浮かんだのは、棘の姿。言葉を発するだけで相手を呪う、その術式の厄介さならよく分かっている。そこに近接戦闘に特化した小泉と合わせるとなると、こちらに不利な要因が増えるばかりだ。
｢ああ、でも狗巻家みたいなエリートじゃないんだよねウチは。あんな強制力も万能性もないし、増幅装置がなきゃ雑魚もいいとこだから安心して｣
｢増幅装置？｣
｢君らに名刺渡したでしょ。あれ“釣瓶下ろし”っていう樹齢ウン百年の呪樹から作った札で、俺の舌の呪印とリンクしてる。この部屋も同じ一本の木から作られた札を壁紙とか至る所に貼ってんの。その全部が俺の舌みたいなもん……この部屋自体が手間かけて作った、限りなく領域に近い結界｣
ぺろりと出された鶴瓶の舌には、見覚えのない呪印が刻まれており、それは彼が呪言師だと裏付ける確かな証拠となっていた。まさかあんな所にまで罠が張り巡らされていたとは思ってもおらず、弱ったなあと俯くAだが、朦朧とする意識の中、ふと危機感に気がついた。
(“術式の開示”………………！)
術式は、人にその効果を説明することによって威力を増す。そしてたった今、目の前の敵は自分の術式について御丁寧に解説してくれている。両手を縛られているので耳を塞ごうにも塞げず、ただただ受け入れるしかないAたちに、鶴瓶は決定的な事実を叩きつけた。
｢俺の呪言は不便で単純。ただ俺の語る言葉は全て“信じてしまう”ってだけ｣
自身の放つ言葉に強い信憑性を持たせる術式。
そして、その術式を開示することにより、信憑性は益々強くなる。信じたくないのに信じてしまう、従いたくないのに従ってしまう。侵され続ける意識に抗うこともできず、Aはその瞳を絶望の色に染めることしかできなかった。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年2月26日 12時
