夜明けのいばら道�� ページ32
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それから幾つか角を曲がってビルを横切って…。
景色は先程と少しばかり変わったが、人の多さは相変わらずだ。
｢なーるほどね。狗巻先輩、割と独占欲強いんだ｣
意外な一面を知れたわ、と大して彼のことを気にもとめない様子で野薔薇は歩いていく。Aは渋々その後ろに続きながら、もう見えない棘の姿を探してきょろきよろと辺りを見渡していた。
｢なんか言いたそうにしてたけど…………ほっとって大丈夫かな｣
｢どうせ大したことないから大丈夫よ。それに、今日は私がA先輩と出かけるってずっと前から約束してたんだから。幾ら彼氏だからって邪魔はさせないわ｣
｢…………そう？｣
大事な用があるなら追っかけてでも来るでしょ、
と呑気に笑いとばす野薔薇。そんなもんなんかなぁと腑に落ちない気持ちに無理矢理フタをし、肩からずりおちそうなショルダーバッグを引き上げた。
チラシやティッシュを配る人を躱し、人混みを縫って歩くAたちの前に、ふと人影が立ち塞がった。
｢ちょちょちょちょ、すーみません。ちょっとお時間いいですか？｣
｢は？｣
先程のティッシュ配りとは風格の違う、えらくチャラそうなキャッチの男。金髪と顎髭が特徴的なそのスーツの男は、ニコニコと笑いながら2人の進行方向を塞ぐ。不機嫌そうに眉を寄せた野薔薇は、怯えきったAを背に隠し、長身の男をギッと睨め上げた。
｢何よ。モデルの勧誘なら間に合ってんだけど｣
｢いやいやそう仰らずに。私、こういう者でして｣
｢？｣
男が差し出したのは、掌サイズの一般的な名刺。
チャラ男は苦手な分野であるAが恐る恐る野薔薇の手元の名刺を覗き込もうとすると、男はAにも同じ名刺を渡してきた。
｢私、その名刺に書いてあります通りHプロダクション、ファッションモデル専業部に務めております、鶴瓶加也と申します｣
｢Hプロの…………モデル？｣
Hプロダクション。それは世間知らずのAでさえも知っているような有名なプロダクションであった。思わぬお声掛けに、目を瞬かせて顔を見合せたAと野薔薇は、驚いたように｢嘘でしょ？！｣と声を揃える。
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作者名：まめこ。
| 作成日時：2021年2月26日 12時
