生きたい彼女と死にたい彼。 (ページ7)

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「君はさ、死にたいって思ったことないの」

器用に包帯を巻き直しながら、

顔色一つ変えずに言葉を並べる。

なぜ腕を切るような事をするのかも頭で整理できないまま問いかけられ、

さらに頭は混乱する。

まるで絡まったイヤホンのようで、一向に解ける気配がない。

唖然としているとやっぱり何でもない、次そっちの秘密。

と地面においていた残り少ないアイスコーヒーを手にする。

透明だった氷は少しばかり小さくなって、

カップの周りにできた水滴がアスファルトに円を描いていた。

その上に1滴、雫が落ちる。

『生きたい……死にたくない、』

はっ、とした時には既に唇から零れ落ちていた。

さっきの表情から少し眉間に皺がよった阿部くんが、

「…ごめん、結構デリケートな秘密？」

『まだ……友達に話せてない…』

明らかにテンションの下がった私を見て気まずくなったのか、

ストローでずごごっと音がするほどの勢いでアイスコーヒーを飲み干した。

「じゃあ俺はその友達のあとに聞く。
交換条件っていう約束は絶対ね、じゃ」

私が返事する間もなく、

氷だけになったカップをしゃかしゃかと振りながら歩いて行ってしまった。

"死にたいって思ったことないの"

耳の奥でへばりつく言葉。

死にたいどころか生きたいとしか思っていない。

何故昨日秘密交換を申し出てきたのか、

何故会ったばかりの人間に腕を晒したのか、

何故腕を切るまで死にたいと思っているのか、

一切見当がつかない。

つくわけがないのだけれど。

考えたくもない事を考えながら下校時間か近くになっていることにふと気がつく。

3人を待とう、
待って、
ちゃんと話さなきゃ。