【呪術廻戦】禪院家名物のファザコン末娘が癖強すぎる件3 (ページ16)

今日:11 hit、昨日:12 hit、合計:25,850 hit

閑話ページ16

初めて呼ばれた日

·

末の娘、それだけで十分可愛がるに値していた。
だが直毘人という男は父親である前に禪院という家の当主である。

顔も覚えていない女から生まれた双子の息子と娘。双子を凶とする禪院家にはあっという間にその話が広がった。
当主の種から不吉な双子が生まれたと、一卵性の双子が生まれたのだと。
その騒動を収めるのはさすがの直毘人と言えど徒労を要するものだった、直毘人は溜息をつきながら既に母親とは隔離されている双子を見つめる。

「…」

「ぅ？」

起きているのは娘の方だった。キョトンと琥珀色の瞳で真っ直ぐと直毘人を見つめている。怖がりもしない、肝が据わってるのは直毘人の娘なだけあるのだろう。
直毘人は少しだけ機嫌を良くしたのか、おもむろに娘を抱き上げた。

「ちいせぇなぁ」

「んぅ？」

「……能天気だなガキってのは」

それから双子と顔を合わせたのは赤子が生まれて10ヶ月が経った頃だった。
どうやら娘の方は直毘人の顔を覚えていたらしく、襖を開けて中に入った直毘人の元へ上手にはいはいで寄ってきた。
一方息子の方は心做しかじと、と直毘人を見つめている。

「……A」

「ぅ！ぱ、あ」

「…？……！？えっ！？い、今なんて言った！？」

「ぱ、ぁーぱ！」

「パパ！？パパって言ってるのかこれ！？」

世話係の女中がこんわくのかおで直毘人を見つめるが、その剣幕に押されたのかこくりと頷いた。
直毘人と女中2人の耳がおかしくなければ、Aは確かに直毘人を見つめて“パパ”と言ったのだ。

つまりそう、これが禪院直毘人没落の瞬間だった。

「お前の初めての言葉はパパだったんだぞ〜？」

幼い娘を膝に乗せた直毘人はデレデレと眉を下げながらそう言う。Aはそんな父親をキョトンといつかと同じ瞳で見上げてそーなん？と舌っ足らずに聞き返した。

「ちなみにお前はAの名前だったな」

「へぇ、まぁ僕ら一心同体やしな」

両膝に双子を乗せた直毘人、それはいつだって禪院家で見られる不思議でもなんでもない光景だった。
直毘人は特別Aを可愛がっていたがそれと同じくらいに直哉のことも可愛がっているのである。
髭が当たって嫌そうな顔をする直哉と嬉しそうに抱き締め返してくるA、まさか自分がこんなに親バカになるなど思ってもいなかった直毘人はまぁいっかと思考を放棄するのである。