240メートルの誤算5【佐野玲於】

重たい ページ10

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一段飛ばしで階段を駆け上がり、一番奥のインターホンを鳴らす。
マスク取りつつ待ってたら、パタパタ足音が聞こえてきて

勢いよく開いたドアの向こう
A、目まん丸くして立ってた。
どこか不安そうな表情に、俺まで焦る。


「え…どした？」
「……よかった…きた…」
「え？」
「…あと5分って言ってから、もう20分くらい経ったから…あは、ちょっと不安になっちゃって。」
「……。」
「……えっと、ごめんね、わたし心配性で。」


そう言いながら、リビングに戻ろうとするAの手を引いた。
驚いたように少し上がったその肩
それすら大事に感じて、それごと、全部抱きしめる。
Aはなにも言わないまま。


「……仕事の電話きて、ごめん。」
「…うん、わかってるよ。」
「……いい匂いすんね。」
「……もうできてるもん、親子丼…」
「…ちげーよ、お前が。」
「…わたし？」


Aの首元に顔くっつけたまま、うんって頷く。
そのまますぅーって息吸い込んだら
Aは、くすぐったいってちょっと笑った。


「玲於くん、頬っぺた冷たい…」
「んー、外ちょっと寒かった。」
「…そっか。」
「……Aはいっつもあったかいな。」
「…うん。今日は特にね、ずっと家にいたから。」
「ふ、ずっと家にいたの？」
「うん。」
「…朝何時に起きたの。」
「えっと…10時。」
「おっそ。笑」
「寝坊しちゃった。」


最後、いっかいだけ強くぎゅって抱き寄せて
腹減ったーって、玄関の鍵を閉めた。
Aは笑顔になってくれてて、その顔のまま、俺の右手を取って リビングに向かってく。

繋がれた右手を見ながら、胸の奥が どうしようもなく重くなった。
…この先 一生こうやって、嘘をついていくんだな


「もー、たまごせっかくふわふわだったのに。」
「うわ、そうじゃん。」
「ほらもう、固まっちゃったよ。」
「ごめんごめん。でもめっちゃうまそう。」
「早く食べよう。」
「え、Aも今から？」


時計はもう22時を指している。
A、そうだよ、って 当たり前みたいな顔して言った。


「…メシ、待っててくれたの。」
「うん、…あ、けど気にしないで！おやつとか食べてたら、あんまりお腹減らなくて。」
「……お前さあ…」
「……な、なに…」
「…そういうとこじゃん…」


はぁー…と大きくため息。
また抱きしめたくなった気持ちをぐっと堪えて、よしメシ食べようって、食器運ぶの手伝った。



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