240メートルの誤算5【佐野玲於】

一週間ぶり ページ9

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「…久しぶり。」
『久しぶり。今いいの？』
「ああ、うん。ちょっとだけ。」


タクシーを降りて、アパートの外でさくらちゃんに電話をかけた。
一週間ぶりのその声に、どういうわけか鳥肌が立つ。


『ごめんねラインしちゃって。』
「いや、俺も忘れてた。」
『あは、忘れてたの？それは幸せそうで何より。』
「うんもうね、超幸せ。今までで一番くらい。」
『うわいいな〜』
「そっちは？」
『変わらずだよ。』
「ふうん。」


興味なさそうだねって笑うさくらちゃんは
ほんとになにも変わってなくて
久々に、この4ヶ月間のことを思い出した。
…俺、この子とずっと一緒にいたんだな


『元気そうでよかった。うまくいってて。』
「うん。」
『落ち着いたらまたご飯行こうね。』
「うん。」
『こっちからはもう連絡しないけど、一応登録してる名前変えといてね。』
「あー、わかった。」
『今から会うの？』
「うん。」


あと15分で22時。
明日はちょっとゆっくりだし、泊まっていける
腕時計見ながら、そんなことを考えた。


『…ねえ、やっぱりいきなり冷たすぎない？笑』
「え、あ、ごめんごめん。」
『さっきから、うんしか言ってないよ！』
「ごめん、違うこと考えてた。」
『ひどいな〜』
「今度ほら、あの…なんだっけ？龍友くんの彼女の…」
『カナね。』
「あそうそう。カナちゃんとかと一緒にさ、メシいこ。」
『ふたりで会う気は無くなった？』
「や、そうじゃないけど。」
『まあいいや、わかったよ。』


…あれ、俺めっちゃウザいヤツになってる？
Aと再会して、さくらちゃんに向けてた気持ちがすっかり消えてしまった。
普通の友だちになりたいって言ってくれたの
すげえ嬉しかったはずなのに。


「…ごめん、なんか俺、自分のことばっかで。」
『え？いいよ、全然。』
「いや…うん、なんかあったら言って。すぐ行くし、相談乗る。」
『あは、ありがとう。さすが友だち。』
「うん。」
『玲於くんもね。今のとこは大丈夫みたいだけど。』


それからまた、少し話した。
あの人気の俳優とふたりでメシ行ったとか
有名な芸人に指輪買ってもらったとか
意味わかんないくらい飛び抜けた話題で笑ってしまう。


「楽しくやってんじゃん。」
『まあね。玲於くんには負けちゃうけど！』
「うるせえ。」
『あはは、じゃあ長々とごめんね。』
「はいはい。」
『またね。』


通話終了の画面
気付けば15分も話してしまっていた。


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